2009 Fiscal Year Annual Research Report
近現代日本の村落共同体と災害対応―保険・金融・土木―
Project/Area Number |
09J06216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小島 庸平 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 長野県 / 下伊那郡 / 恐慌 / 公有林 / セーフティネット / 共同体 / 救農土木事業 / 高橋財政 |
Research Abstract |
本年度は、長野県飯田市の座光寺・上郷地区を中心に、大恐慌期における救農土木事業と村有林の関係について分析を行った。下伊那郡は長野県下でも公有林野の面積が大きな比率を占める地域であり、大規模な災害・凶作や恐慌に見舞われた際には、薪炭材採取制限の緩和などが実施され、公有林野が住民に対して一定のセーフティネットを提供していた。とはいえ、こうした林野に依存したセーフティネットは、言うまでもなく資源の賦存量に制約される。本研究では、森林資源の賦存状況という点で極めて対照的な関係にある旧座光寺村と旧上郷村を比較しつつ検討することで、林野によるセーフティネットの意義と限界、およびそれが大恐慌期の国家的窮民救済策である救農土木事業といかなる関係を取り結んだのかを明らかにした。 これまでの分析から得られた知見は、以下の3点に整理される。第一に、豊富な貯木量を持つ村有林に恵まれた上郷村では、住民が薪材採取という就労機会に恵まれていたがゆえに、救農土木事業においても相対的に高い労賃が支払われていた。第二に、上郷村とは対照的に村有林資源が枯渇していた座光寺村では、救農土木事業による所得再配分効果は上郷村に比べて低位に止まっており、就労の場としての村有林の荒廃は救農土木事業の実施にも関わらず深刻化していた。第三に、以上2ヵ村の比較から、地域における就労機会の量と質が、救農土木事業の実績に大きな関連を有する可能性があることが示唆された。この点は、今後、救農土木事業の実証分析が進められる上で、極めて重要な論点となると考えられる。 以上、本研究では、これまでほとんど個別事例の実証分析が行われてこなかった救農土木事業を、公有林野の資源賦存状況と関連付けるという従来見られなかった切り口から分析を行った。また、救農土木事業に対する評価の精緻化という点でも、研究史に対して一定の貢献をなしえたものと考えられる。
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Research Products
(2 results)