2009 Fiscal Year Annual Research Report
齢構造をもつ集団における利他行動の進化に関する理論研究
Project/Area Number |
09J06233
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 元秀 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 数理モデル / シミュレーション / ゲーム理論 / 遺伝子 / 血縁選択 / おばあさん仮説 / 人類学 / 人口学 |
Research Abstract |
本課題は、具体的には「ヒトを含む一部の種のメスが、閉経後にも一定期間生存するように進化したのは、その期間に血縁者への利他行動(主に、孫育児)をすることで、包括適応度を上昇させているからだ」という、おばあさん仮説を検討している。利他行動の効果が微小で集団構造(齢別人口比や性比)がほとんど変化しない場合には、ハミルトン則が成立し、孫が1個体増加したときの行動者の遺伝的利益は、子が1個体増加したときの利益の半分でしかない。よって一般に、孫の生存力上昇に寄与するよりも限界まで自ら繁殖する戦略が有利とされる。だが、効果が微小でない場合は、血縁選択に加え、齢別人口比の変化も考慮する必要がある。人口学では、一生に産む子の総数や質を少し減らしてでも早い時期に多くの子を産む、早期多産の生活史戦略が進化的に有利であることが知られているが、孫育児が普遍的に行われる集団では、各個体は後天的に早期多産生活史を獲得していることになる。そこで、血縁選択と早期多産の効果を同時に検討できる遺伝モデルを構築・解析した。成熟個体が二度の繁殖期を経験できる個体群を考え、メスは二度目の繁殖期に、自身の遺伝子型に応じて「自らの繁殖行動」「孫への育児行動」のいずれかをとるとした。解析の主要結果として、二遺伝子型の各々が進化的に安定であるための(ESS)条件を得た。どちらのESS条件も、ハミルトン則により導出されるものと比べ孫育児型が有利な方向にずれており、早期多産生活史獲得の効果が確認された。さらに、繁殖型と孫育児型が同時にESS条件を満たすパラメータ領域があることがわかった。実証研究において「閉経後の生存期間が、ヒレナガゴンドウには存在せず、コビレゴンドウには存在する」という報告があるが、この不一致は、両生活史戦略が同時にESSである生態環境下にゴンドウクジラ属がいるために(遺伝的浮動等により)生じたのかもしれない。
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Research Products
(3 results)