2010 Fiscal Year Annual Research Report
スピン液体状態を利用したマルチフェロイクスに代わる電気磁気効果の研究
Project/Area Number |
09J06590
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 勇太 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | スピン液体 / フラストレーション / 電気磁気効果 |
Research Abstract |
本研究では、異方的三角格子スピン系において異方的d+id波と呼ばれる時間反転対称性の破れたRVBスピン液体状態を見出し、各種物理量が低温において特異な振舞いをすることを示した。このスピン液体状態では有限のスピンギャップが開くが、その空間的異方性は三角格子の異方性よりも顕著に現れることを明らかにした。 時間反転対称性の破れを伴って生じるこの異方的スピンギャップは、電気磁気効果にも異方性として現れると期待される。しかし、d+id波がd波よりも安定になるパラメータ領域は比較的狭く、120°磁気秩序状態や並進対称性の破れたRVB状態、あるいはスピン液体状態と磁気秩序状態の共存状態がさらに安定化する可能性がある。非整合なスパイラル磁気秩序は有限サイズ計算で扱うのは非常に難しく、本研究とは異なるアプローチが必要になる。仮にこのような磁気秩序が安定化した場合、隣接する3スピンの成す立体角がゼロとなってしまうため、電気磁気効果による自発的誘電分極は生じないと考えられる。 一方、本研究のターゲット物質である有機導体K-(ET)2Cu2(CN)3では新たに誘電異常が観測され、ET分子ダイマー内部の電荷ゆらぎが低温まで重要になることが明らかとなった。NMR緩和率や比熱、熱伝導度に見られた6Kにおける異常は格子と結合している可能性が示唆された。この場合、伝導面を三角格子とみなすダイマーモデル以外に、電荷あるいは誘電性の自由度を加えたものが新しいモデルであると考える。ダイマー内の電荷自由度を利用した誘電分極とスピンの新たなカップリングが見出される可能性があり、同様の磁気的振舞いを示す有機物質EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2とともに、今後更なる実験及び理論研究の進展が期待される。
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Research Products
(1 results)