2009 Fiscal Year Annual Research Report
メゾスコピック系の非平衡状態における電子相関効果・干渉効果の理論的研究
Project/Area Number |
09J06752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桐野 俊輔 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 非平衡定常状態 / 一次元系 / 強相関電子系 / 時間依存密度行列繰り込み群 |
Research Abstract |
2009年度は非平衡定常状態における電子相関効果を対象とし、以下の3種類の系について研究を行った。 [1]単一量子ドット系 2009年4月以前から継続的に研究を行ってきた単一量子ドット系については、ドット内の電子間相互作用が大きい場合に近藤温度が小さくなるために非平衡定常状態への緩和時間が長くなり、数値的なシミュレーションが困難になるという課題があった。我々は鈴木・Trotter分解の次数を2次から4次にし、最適な計算パラメータを注意深く選ぶとともに、計算プログラムの最適化を施して、より長い時間のシミュレーションを可能にした。その結果、以前論文に掲載したWilson比Rw<1.71から、Rw<1.97までの強相関領域を数値的に扱えることを示した。この結果をEP2DSにおいて発表し、そのProceedingが出版された。 [2]直列二重量子ドット系 直列二重量子ドット系は、二不純物の近藤問題と同等のモデルで記述され、近藤問題の知見から「不純物サイト間でスピン1重項を作る固定点」と「2つの近藤1重項を形成する固定点」とのクロスオーバーが存在することがわかっている。我々は直列二重量子ドット系に有限のバイアス電圧を印加したときの非平衡定常状態の性質が、これらの固定点とどのように関わっているかを調べてきた。系が完全な反転対称性を持つときは様々な振動成分が定常状態を見えにくくするという点があったが、わずかに非対称性を導入することでこの振動成分が抑制し定常状態を判別しやすくなることがわかった。 [3]一次元Hubbard模型 Half-filledの一次元Hubbard模型では、有限の斥力相互作用Uによって電荷ギャップが生じ、基底状態がMott絶縁体となることが知られている。我々はこの状態にバイアス電圧を加えることで絶縁破壊のプロセスを数値的にシミュレートし、絶縁破壊後に形成される非平衡定常状態の性質を調べた。その結果、バイアス電圧が電荷ギャップ以下のときは定常的な電流は生じないのに対し、バイアス電圧が電荷ギャップを上回ると定常電流が流れるという直感的に自然な結果が得られた。また電流・電圧特性を見ると、絶縁破壊を超えた高電圧領域に電流が電圧の関数としてほぼ線形になる領域があり、Uが大きくなるにつれてその傾きが小さくなることがわかった。これは本質的に新しい発見であり、その物理的な起源はわかっていない。一方、電子間の相互作用が引力の場合、基底状態は超伝導と電荷密度波の長距離相関を持つことを反映して、線形コンダクタンスはUに依らず完全伝導のそれと一致し、朝永-Luttinger液体の理論とも整合することを示した。
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Research Products
(2 results)