Research Abstract |
駿河湾・相模湾沿岸において試料採集を行った.その結果,7科9属18種(その内13種が未記載種)のCythere上科の間隙性貝形虫類が得られた.その中で,Microloxoconcha属の1種において,種の分類に重要な形質である雄の交尾器形態の二型の存在が,形態観察とミトコンドリアDNAの塩基配列を基にした解析によって明らかになった.このような"雄の二型"は貝形虫類では初めての例であり,貝形虫類ならびに動物の種分化機構の解明に重要な知見となる. Cythere上科に属する間隙性種5科7属16種および表在性種2科2属2種について,核DNAの18S rDNA領域(約1,800塩基対)の塩基配列を決定した.これらを既存の表在性種の塩基配列データと合わせ,計40種について分子系統解析を行った.この解析によって,間隙性分類群がCythere上科の系統の中で,独立に複数回派生していることが初めて明らかになった.これは,本上科の進化史において,堆積物粒子の隙間への移入,すなわち"間隙性化"が独立に複数回起こったことを示している.この結果から,"間隙性化"が本上科の多様化に大きく寄与していることが議論できた. 間隙性分類群の進化過程を明らかにするために,分子系統解析によって明らかになった近縁な間隙性種と表在性種との間で形態比較を行った.形態観察には,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡およびX線マイクロCTスキャナを用いた.その結果,全ての間隙性種の進化的傾向として,小型化が認められた.このことは,狭い間隙空間への移入に対して,小型な体サイズが最も重要な適応の要素であることを示唆している.その他の進化的傾向(背甲の扁平化や体の各部位の単純化など)は,全ての間隙性種に観察されるわけではなく,間隙環境への移入後に起こった特殊化であると考えられる.このように間隙性動物の進化的段階を示した例は,本研究が初めてであり,間隙性動物の進化過程および多様化の様式に対して新しい知見を加えることができた.
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