2009 Fiscal Year Annual Research Report
言語哲学における「導入」概念の分析とその意義の探求
Project/Area Number |
09J06891
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒磯 敏文 Keio University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 言語哲学 / 導入 / 指示 / 不定記述 / 談話照応 / 語用論 / 一般化された会話の含み / 認識論 |
Research Abstract |
平成21年度の「研究実施計画」は、本研究の鍵概念である「導入(introduction)」概念の特徴づけあるいは定義を最大の目標としていたが、それは、『科学哲学』に掲載された論文「指示と導入-不定記述を受ける談話照応との関連から-」において、ほぼ達成できた。この論文では、不定記述(indefinites)を先行詞とする談話照応(discourseanaphor)の解釈に着目し、「導入対象の継承要請(inheritance requirement)」と呼ぶべき現象の存在を指摘した。すなわち、導入的な不定記述の使用は、それを受ける談話照応の解釈に棄却できない影響をもたらすという特異な現象である。これは、談話照応の統辞論と語用論との間に、これまで指摘されていなかった密接な関係があることを示唆し、さらに談話照応の意味論にも影響が予期されることも指摘した。今後は、この論文を基調として、個々の論点の説明に研究を展開させる。すでにそのいくつかは、以下に挙げたとおり、平成21年度の研究で進捗を見ている。 第一に、導入的な発話の解釈の内実を明示する試みである。これを、話し手と聞き手の相互的な意図の忖度という観点から説明する可能性を検討し、「指示と導入-意図の忖度から-」と題し、哲学若手研究者フォーラムにおいて発表した。 第二に、不定記述の使用が、ある一定の条件下で導入的な解釈を選好する理由を、新グライス主義的な「一般化された会話の含み」によって説明する可能性を検討し、一定の肯定的な成果を得た。これは、「不定記述による導入-会話の含みによる説明の試み-」と題し、日本科学哲学会において発表した。 第三に、導入概念が、認識論に関連してもつ特異な意義を示した。すなわち、導入的な発話への適切な理解が、その主体にとって対象関与的(de re)な態度をもてる対象領域の拡張をもたらすという認識論的には決して自明ではない論点である。この成果は、「言語はその人の世界を拡張するか?」と題し、学習院大学哲学会において発表した。
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Research Products
(4 results)