2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J06908
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩野 了子 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 序詞 / 万葉集 / 古今集 / 大伴家持 |
Research Abstract |
『万葉集』から『古今集』間における序詞の修辞としての変化を踏まえ、それが起こる原因を『万葉集』の中から見つけ出すことを目的に、『万葉集』の序詞について調査を行った。『万葉集』の中でもかなり新しい時代の作品を見ても、『古今集』序詞の特性を持った和歌はごく少数であった。和歌としては古今調といえる万葉歌にも、『古今集』序詞に近いものは多くはない。その中で、大伴家持の越中国における序歌に注目した。注意すべきは、越中国という都から遠く離れた雛の地における序詞に、その地の特異性を表す表現が用いられないこと、非常に平凡で使い古された表現を用いていること、しかも同じ表現を繰り返し用いていることなどである。家持の場合、表現に組み込むことが出来なかった雛の地の特異性を、注記や左注に記すことでそれを補っていた。以上の点は、家持が都の論理を逸脱した雛の地において突き当たった、景や物象の持つ力に対する不信感を示すものだと思われる。雛の特異性を一首の中に詠み込んでも、表現が安定するとは到底思えなかったからこそ、注記や左注、使い古された表現を用い、その伝統によって辛うじて表現の安定を保ったのである。これは、それまで無批判に信用されてきた物象の力に、家持が疑問を抱いたことを表している。『万葉集』序詞が『古今集』序詞へ変化する原因をここに見ることが出来た。この研究の成果は、『万葉集』序詞のあり方を『古今集』序詞との比較によって導き出したことによって、『万葉集』内部において物象に対する認識の変化が起こっていることを示す点で、重要な意義を持つ。
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Research Products
(3 results)