Research Abstract |
本年度は採用の中断を申請したため,もともとの研究計画を若干修正し,フィールドワークについてはメキシコのみ実施した。平成22年1月28日から約1ヶ月間メキシコに滞在し,コレヒオデメヒコ大学で資料収集にあたった他,実証において重要となる関係者へのインタビューを実施できたことは,本研究の進展にとって非常に有意義であったと考えている。具体的には,メキシコ年金基金運用会社組合代表,BANAMEX年金基金運用会社社長,元連邦下院議員,医療関係者から成る運動の代表らへのインタビューを行ない,メキシコの年金制度改革における「第二世代改革」といえる2007年の公務員年金制度民営化改革の要因を探った。その結果,当初の仮説を少し修正すべき必要性が出てきた。すなわち,私が想定していた制度的要因が,思っていたほど決定的な説明要因ではなく,他の構造的要因および政治,観念的要因を含む複層的な説明をもってして初めて,当該改革が行なわれた要因を明らかにすることができると考えるにいたったのである。仮説が部分的にも否定されたことは否めないが,より精巧な説明枠組み構築の第一歩となったともいえ,それは本研究にとって大きな進展であるといえる。 現段階における研究の進展状況は以下の通りである。本研究はメキシコの公務員年金制度民営化,アルゼンチンの年金制度再国有化,およびブラジルの公務員年金制度改革を,各国の1990年代の年金改革(第一世代改革)と対比して「第二世代改革」と呼び,なぜ第二世代改革が起こったのか,そして第二世代改革における各国間の相違はどのような要因によるものか,を明らかにすることを目指す。90年代の改革は各国で年金制度のあり方そのものについての議論を引き起こし,またある国々ではそのあり方が根本的な変革を見た。本研究は理論面でも,こうした大きな制度的変化が起こった後には何が起こるか,という問題について,各国事例比較から一つの答えを導くことを目標としている。現段階での仮説は,説明要因を構造的要因,および政治・制度・観念的要因にわけ,複層的な視点から第二世代改革の要因の説明を試みる。 現段階では既述のメキシコにおけるフィールドワークによって,メキシコの事例については資料を得ているが,不足部分は第二年度目に再度調査を行ない,また残りの二カ国についてもフィールドワークを実施する予定である。また,論文の理論編についても引き続き先行研究等を読み込み,本年度は論文の執筆に着手する。
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