2010 Fiscal Year Annual Research Report
近世末期国学者の研究―幕末長崎における国学の興隆と文人ネットワークを中心に―
Project/Area Number |
09J06939
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉良 史明 九州大学, 大学院・人文科学府, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 幕末国学 / 長崎 / 中島広足 / 情報ネットワーク / 神風 / 神国思想 / 近世和歌 |
Research Abstract |
本年度は、交付申請書に記載したごとく二年間の中島広足に関する研究の成果を博士論文として取り纏めることに重点を置いた。その結果である以下の三点を本年度の研究成果として報告する。 先ず一点目は、先年度より執筆していた「中島広足『樺島浪風記』の変容-幕末国学者の文芸と思想-」を加筆、推敲し、京都大学の機関誌「國語國文」に投稿、掲載が決定したことである。同論文は、幕末の神国思想の高まりのもとに『樺島浪風記』なる紀行作品が神風の子細を描いた書へと変貌し、受容される模様を明らかにしたもの。従来、戦時中の神国思想の端緒とされ、忌避されてきた同時代の思想を直視し、当代文芸に与えた影響を検証したものであり、既存の文学史を塗り替えるものかと思う。 次に二点目は、いまだ学会誌に未投稿ながら、幕末における歌語「神風」の変容に関して発表、論文に纏めたことである。同じく神国思想の高まりのもとに、歌語「神風」が従来の「伊勢」を導く枕詞としての用法のみならず、神に仇するものを吹き滅ぼす意に詠まれてゆく模様を論じた。そして、歌語「神風」の変容は、万葉集一九九番歌の解釈の変容をもとに、同歌を証歌としてなされたものであることを解明した。近世歌人の注釈と作歌意識との関連の一端を示し得たかと思う。 そして、三点目は、長崎歌壇の詠歌を解明する基盤となる『長崎歌文集』を編纂したことである。同書は、広足が長崎の歌人の歌を取り纏め、編んだ『瓊浦集』二巻二冊、広足とともに長崎の三歌人に数えられる青木永章『玉園長歌集』二巻二冊、近藤光輔『夜雨庵集』三巻三冊を収載したもの。当代中央歌壇の歌人の詠歌と比較、検討することが可能となり、長崎歌人の詠歌の特質を解明する基盤が整備されたといえる。
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Research Products
(4 results)