Research Abstract |
これまでの先行研究と申請の研究によって,抑うつの強い子どもが喜びや樂しなどのポジティブ感情を生起させるような情報を回避する注意バイアスを示すことが明らかとなった。また,この注意バイアスは,対人的なストレッサーの体験を介して半年後の抑うつを強めることが示され,抑うつの認知的脆弱性の1つである可能性が示唆された。今年度は,ポジティブ情報に対する回避的な注意バイアスが,どのようと将来的な抑うつとの間の関連の検討を目的に,3つの調査研究とその知見に関する学会発表を行った。第一に,ポジティブ情報に対する回避的な注意バイアスと,抑うつへの関与が報告されている認知的特徴との関連を検討した。その結果,ポジティブ情報の中でも,自己に関連したポジティブ情報に対する回避的な注意バイアスが,抑うつ気分を増大させるような思考と態度に影響を与えていることが示された。第二に,抑うつに関与する行動的特徴の1つである,快活動に関する従事頻度と活動評価を測定可能な尺度を開発し,注意バイアスとの関連を検討した。その結果,快活動に対する評価と,注意バイアスとの関連が示された。これら2つの研究から,ポジティブ情報に対する回避的な注意バイアスへのアプローチが,子どもの抑うつの生起・維持に関わる認知的・行動的特徴に影響を与えることが示唆され,抑うつの予防効果が期待されることが示された。そこで第3に,注意バイアスの変容を目的とした認知訓練の手続きを作成し,従来の抑うつの予防を目的とした心理教育に加える形で,小学校5年生の2学級を対象に試行し,効果測定を行った。その結果,有意に抑うつを低減させる効果が見られ,さらに認知訓練の副次的な効果として訓練場面外での自主的な実践が数多く報告された。この結果から,抑うつの強い子どもが示す注意バイアスへの介入の予防効果と新たな可能性が示唆されたと言える。
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