Research Abstract |
本研究は,パイエル板M細胞に発現する特異的転写因子の同定およびその機能解析を通して,パイエル板M細胞の分化誘導機構を解明することを目的に進め,最終的にはパイエル板M細胞を人為的に誘導することで,効果的な抗原特異的粘膜免疫応答を誘導出来る粘膜ワクチンの創製に結びつけることを目指している. 本研究ではまず初めに,マウスから単離精製したパイエル板M細胞とDNAマイクロアレイ,および定量的リアルタイムPCR法を用いて同定したM細胞特異的転写因子の候補Hmx3に着目して解析を進めた.マウス小腸上皮細胞由来のMode-K細胞,およびレトロウイルス発現系を用いて,Hmx3とEGFPを共に発現するトランスフェクタントを作製した結果,細胞の形態は扁平状に変化したが,パイエル板M細胞特異的遺伝子Gp2の発現誘導は認められなかった.またHmx3遺伝子欠損マウスにおいても,野生型マウスと同様に,Gp2陽性バイエル板M細胞は存在し,通常状態での腸管IgA産生量,サルモネラ菌の取り込み,サルモネラ菌特異的腸管IgAの抗体価に関しても有意な差は認められず,Hmx3遺伝子はパイエル板M細胞の分化誘導に必須ではないと考えられた.次に,パイエル板M細胞特異的に発現するGp2遺伝子の上流領域(マウス:約3.5kb),およびその領域を部分的に欠損させた領域についてレポーターアッセイを行い,Gp2遺伝子の発現を誘導する転写因子の結合領域の同定を試みたが,Mode-K細胞を用いた場合,レポーター遺伝子の転写活性は認められなかった. 次に,パイエル板上皮層以外のM細胞,および様々な免疫学的条件下におけるGp2の発現挙動を調べた結果,大腸の腸管関連リンパ組織であるcolonic patchのM細胞にもGp2は特異的に発現する一方,鼻咽頭関連リンパ組織NALTのM細胞には,Gp2の発現は認められなかった,また,無菌マウス,T細胞欠損マウス(Tcrβ,Tcrδ遺伝子欠損マウス),B細胞,T細胞欠損マウス(Rag-1遺伝子欠損マウス),CD11c陽性樹状細胞欠損マウス(CD11c-DTRマウスにジフテリア毒素を投与し,CD11c陽性細胞を死滅させた系)の腸管関連リンパ組織の上皮層においてもGp2陽性細胞は存在し,M細胞の分化誘導は,腸内細菌叢やB細胞,T細胞,CD11c陽性樹状細胞の有無に依存しないことが示唆された. 現在,Gp2遺伝子以外のパイエル板M細胞特異的遺伝子を新たに同定し,Gp2遺伝子とそれらの遺伝子の上流配列との相同性を調べ,パイエル板M細胞特異的遺伝子の発現を誘導させる転写因子,およびその転写因子が結合しうる領域を同定することを試みている.
|