Research Abstract |
生物形質における不連続性の生成要因を解明することを目的とし,陸生巻貝の殻形態とその重力環境への適応に焦点をあてた研究を行った.研究代表者の過去の研究により,陸産巻貝の殻の縦横比(spire index)はバランスに適応していることが,理論と実証の双方によって示されている.しかし,殻のバランスにおいては,縦横比以外にも殻の傾きやふくらみ,厚みなどといった様々な要素が重要である.当年度は特に,ふくらみに焦点をあて,貝はバランスに適したふくらみを持っているのかを検証した.さらに,理論形態モデルを用いて,等成長を仮定した際の巻殻における幾何学的制約を明らかにし,生物が制約の中で,どのように関連し合う複数の形質の適応を遂げるのかを研究した.まず,バランスに適した形状を,各形態をもつ殻のモーメントを計算することで推定した.その結果,扁平な殻は円錐に近い尖ったふくらみが最適であり,一方,縦長の殻は円柱に近い膨らんだ形状が最適であることを示した.次に,Okamotoモデルを用いて,等成長で大きくなる巻貝を理論的に描き,その縦横比とふくらみを測定した.その結果,扁平な殻は円柱に近い形状となりやすく,縦長の殻は円柱に近い形状を持ちやすいという幾何学的制約が明らかとなった.そこで,殻形態がこの幾何学的制約にどこまで縛られているのか,どのようにバランスに適応しているのかを明らかにするため,形態計測を行った.その結果,陸産貝類のふくらみにはかなりのばらつきがあること,しかし,全体としては,バランスへの適応を指示する傾向があることが検出された.さらに詳細な解析から,縦横比が極端な殻は,その縦横比自体はバランスに適した形状であるものの,幾何学的な制約を強く受け,バランスに不利なふくらみを持ちやすいということが示された.これらの結果から,陸産貝類の殻形態は,幾何学的制約に対し,複数の形質問で相補的な補正を行うことで,陸上環境への適応を遂げていることが明らかとなった.
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