2009 Fiscal Year Annual Research Report
身体表象のコントロールに関わる実験心理学的・神経科学的研究
Project/Area Number |
09J07135
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石橋 遼 Kyoto University, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 道具使用 / TMS / 身体 |
Research Abstract |
多種多様な道具を作成し使用することは、他の動物と比べたときの人間の重要な認知的特徴の一つである。しかしこの道具使用に関わる情報が脳においてどのように処理されているのかは、いまだあまり明らかでない。神経心理学的研究の分野では古くから、大脳皮質のある特定の領域を損傷した場合に「失行症」と呼ばれる症状が発現する事が知られている。これは道具を見て、それが何か(機能)は理解できるものの、実際に正しい動作で用いること(操作)ができないというものである-例えば櫛を見て、髪を梳かすものである事は理解できるものの、櫛部分を握って柄の部分を髪に当てて使おうとしてしまう。ここから明らかなことは、少なくとも道具の機能(function)に関わる情報とその道具の操作(manipulation)に関わる情報が別個に表象されているだろうという事である(Buxbaum et al., 2000)。本研究では道具の「機能」と「操作」に関わる脳の部位を、経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation : TMS)と呼ばれる神経科学的実験手法を用いて明らかにしようと試みた。TMSは強い磁気刺激を頭蓋の上から断続的に当てることにより、大脳皮質上のニューロンの過剰な活動を生じさせ、適用後一定時間(10~15分ほど)当該皮質部位の活動を抑制する手法である。13人の協力者の左前側頭葉と左下頭頂葉にTMSを当て一時的に当該の部位に置ける神経活動を阻害し,道具の「機能マッチング」「操作マッチング課題」の実行を求めた。マッチング課題では1つのプローブ道具名とその他の3つの道具名を呈示し,プローブ(例:はさみ)と同じ機能を持つ道具(例:ナイフ)あるいは同じ操作法を持つ道具(例:ホッチキス)を選ぶように求めた。その結果,左前頭葉を刺激した後では道具の機能判断が,左下頭頂葉を刺激した後には道具の操作判断が遅延する傾向が見られた。この結果はそれぞれ左側頭葉損傷による意味認知症患者、左下頭頂小葉損傷によると失行症患者のパフォーマンスに対応しており、これら2つの部位が道具の機能/操作に関する情報をそれぞれ表象している可能性が示された。
|
Research Products
(1 results)