Research Abstract |
生物における性の存在意義や有性生殖の進化は,進化生物学において永年議論されている重要課題の一つである。性を分化させた初期状態を留める原始的有性生物におけるアプローチと共に,二次的に両性生殖を失う方向へと進化した生物を対象として「性の意義」を議論することも重要,かつ,新たなアプローチと考えられる。両性生殖・単為生殖個体群の両タイプがモザイク的に混在分布するオオシロカゲロウ(昆虫綱・カゲロウ目)は,世界的にも稀な地理的単為生殖種であり,単為生殖への進化プロセスを考える上で興味深い生物種である。 そこで,このオオシロカゲロウを対象に,単為生殖能力の獲得や単為生殖個体群の分化・維持機構について,多角的(発生学的,遺伝的手法などを絡めた系統進化・生態学的)アプローチをとることにより,地理的単為生殖の成立プロセスをより詳細に究明することを目的としてきた。 平成21年度には,単為生殖個体群における繁殖システムが,卵細胞の減数分裂終了後の雌性前核と第二極体核の融合により二倍体のメスを生じる単為生殖であること(Sekine and Tojo,2010a),両性個体群のメス個体においても,胚の生存率は低いものの,同様の単為生殖(二倍体雌性産生単為生殖)能力を潜在的に有することを立証した(Sekine and Tojo,2010b)。また,航DNAからの塩基配列多型解析の結果,単為生殖個体群は単一の祖先に由来する単系統群,つまり単一起源であることも明らかになってきており,遺伝的な多様性の非常に低い系統が,両性生殖個体よりも優占するといった,性の意義を考える上で,非常に重要な知見が得られてきた。
|