2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代中央アジアにおけるイスラーム王権とムスリムの政治秩序観
Project/Area Number |
09J07229
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
木村 暁 The Toyo Bunko, 研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中央アジア / イスラーム / 王権 / ブハラ・アミール国 / マンギト朝 / ロシア帝国 / イデオロギー / 宗派 |
Research Abstract |
初年度にあたる平成21年度は,ブハラ・アミール国(マンギト朝)を主要事例として,中央アジア・イスラーム王権のイデオロギーと統治機構に関する現地語原典史料の調査と研究を重点的に進め,以下の3本の口頭発表を行った。(1)"Reinterpreting the Tuhfat al-Khani: How Does It Legitimize a Non-Chingizid's Khanate?"では,18世紀中葉にペルシア語で書かれた年代記『ハンへの贈物』の分析を通じて,非チンギス裔たるマンギト朝創始者がハンを号して即位したことの政治的背景と,中央アジアにおける政治的伝統に矛盾するこの即位の正当化の論理を明らかにした。(2)「写本作品を研究する方法についで(『ハンへの贈物』を例に)」(ウズベク語)では,上記年代記の現存する22点の写本の照査にもとついて,この作品の構成や執筆の経緯・年代に関する従来の誤解を正すとともに,原本の散逸してしまった作品の諸写本から本源的な情報をいかに析出すべきかという方法論上の問題を厳密な史料批判の観点から論じた。(3)「マンギト朝期ブハラにおけるシーア派コミュニティーの顕在化」では,スンナ派正統主義イデオロギーに立脚したマンギト朝がロシア帝国の保護国になったのを境に,ブハラにおけるスンナ派・シーア派の宗派関係と統治構造が漸次的にではあれ著しい変容を遂げたことを,多類型の同時代史料の複合的分析を通じて明らかにした。総じてこれらの研究成果は,第一次史料にもとづいて中央アジアのイスラーム王権の正統性と権威のありかたを特徴づけるとともに,そのありかたが地域におけるその時々の政治変動によって強く作用されていたことを跡づけたものであり,概念と実体の両面から新知見を導出した点で重要性を有するであろう。以上の各テーマについては論文を随時発表していく予定である。
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Research Products
(3 results)