Research Abstract |
本研究は,年輪年代学的手法によって我が国における歴史上の木材流通を解明するという,新しい木材産地推定法の確立を目指すことを大きな目的として,1)スギ標準年輪曲線の広域ネットワーク構築,2)スギ標準年輪曲線の広域ネットワークによる気候場の復元,3)文化財を用いた産地推定への応用という3点に焦点を絞り,研究を遂行する。日本の広範囲,及び長期にわたる標準年輪曲線構築の両面を視野に入れた対象樹種として,日本に広く分布し,かつ有用材として使用されてきたスギ(Cryptomeria japonica)に重点をおいて研究を行う。 今年度は,秋田県森吉家ノ前A遺跡から出土した,井戸枠材などを中心としたスギ材製の木質遺物について,試料の収集,年輪の計測,そして標準年輪曲線の構築を行った。クロスデーティングした試料について,年輪幅をアンサンブル平均した300年以上に渡る年輪曲線を,30点以上の試料を用いて構築した。この年輪曲線は,統計値も十分に高いと評価できることから,本遺跡で供試した試料の年輪変動を代表する標準年輪曲線が得られたと言える。この標準年輪曲線は,青森県十三湊遺跡で調査中のヒバの標準年輪曲線とクロスデーティングが可能で,また出土磁器から推定される考古学的な年代観とも矛盾しないため,中世の東北地方における新たな標準年輪曲線を構築することができたと考えられる。 さらに,この秋田県森吉家ノ前A遺跡での調査では,本遺跡の遺構間の相対的な年代関係についても,年輪年代学から明らかにすることができた。最も古い井戸遺構と,最も新しい井戸遺構とでは,用いられている部材の伐採年に約100年程度の差が認められ,少なくともその程度の期間,本遺跡が継続していること,また何段階かの遺構の時期差があることを明らにした。
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