Research Abstract |
本研究は,年輪年代学的手法によって歴史上の日本の木材流通を解明するという,新しい木材産地推定法の確立を目指すことを大きな目的として,1)スギ標準年輪曲線の広域ネットワーク構築,2)スギ標準年輪曲線の広域ネットワークによる気候場の復元,3)文化財を用いた産地推定への応用という3点に焦点を絞り,研究を遂行する。 今年度の主な成果として,以下の4点があげられる。 古建築物解体修理に伴う新規標準年輪曲線の構築:宮城県瑞巌寺本堂,および東京都護国寺月光殿の解体修理現場に赴き,それぞれ100点以上の部材について年輪年代学調査に供した。これまでに,クロスデーティングした試料の年輪幅をアンサンブル平均し,それぞれの建築物について10世紀~17世紀をカバーする標準年輪曲線を構築することができた。 仏像解体修復に伴う年輪年代測定:山形県鮭川村の庭月山月蔵院観音堂にまつられている聖観音菩薩立像(庭月観音像)の解体修復に伴い,年輪年代学調査を実施した。供試した部材の内,補修材の下部背板は複数の現有標準年輪曲線と同じ年代関係でクロスデーティングでき,この部材が13世紀後半頃(鎌倉時代)に伐採された木であることを明らかにした。 出土木質遺物の年輪年代学調査:東京都千代田区神田淡路町二丁目遺跡出土木質遺物の年輪年代学調査を行った。供試した試料は,いずれも現有の標準年輪曲線とはクロスデーティングできず,歴年代の特定や他の遺跡との年代関係を明らかにすることはできなかったが,今回クロスデーティングできなかった試料についても,今後,年輪記録を蓄積していくことにより将来的に歴年代の特定につながると考えられる。 現生木試料の収集:伐木に伴う円板採取,立木からの成長錐コア採取,収蔵円板のデジタルカメラでの接写により宮城,山形,静岡,奈良,兵庫,宮崎の各地域の現生木試料を収集した。
|