Research Abstract |
自閉症スペクトラムと呼ばれ,独特な行動や発達のアンバランスさから行動の背後に意図や気持ちが読み取りにくいことが指摘される子どもたちのその母親を対象にし,母親がどのようなところから子どもにかかわっているのか,母親自身の主観性はどのように子どもへのかかわりに関与しているのかについて調査を行った。そこで得られた結果からは,母親は,自閉症スペクトラムが疑われる2歳児との母子相互作用において,子どもの心の状態を感じ取ることが難しく,よって子どもの心によりそってかかわることが難しくなっていることが示唆された。また,そこには,子どもの心の状態が感じ取りにくいことによって,母親自身の心,つまり主観性も生き生きと喚起されず,両者の心の相互交流の難しさが自閉症スペクトラム児に対するかかわりの困難さにつながっていることが示唆された。 この結果は,低月齢の乳児に対する母親のかかわりと類似の結果であった。つまり,子ども側の心的状態が未分化であったり,子どもが他者に対して自身の心的状態を伝えたり,他者の心的状態を感じ取ったりできない場合に,母親が子どもの心に応じにくいという母子相互作用の特徴と同様の結果を示唆するものであった。逆を言えば,母親が子どもの心の状態に目を向けながら,子どもの心により寄り添ってかかわっていくためには,母親の側の経験やスキルのみでなく,子どもの側に一定の心の発達が準備される必要性を支持する結果であったと考えられる。 従来は,自閉症スペクトラム児に対するかかわりにくさは,母親側の経験やスキルに焦点をあてた介入が考えられ,母親に問題があるといった誤解や傷つきを与えかねなかった。しかし,本研究からは,自閉症スペクトラム児と母親の相互作用は,子ども側の発達的要因により母親のかかわりにくさが影響を受けている可能性が示唆され,母子双方に介入する必要性が示された。
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