Research Abstract |
本研究は、近年重視されている児童による話し合いを中心とした授業において求められている、他者の言葉を聴くことに焦点をあて、授業の話し合いにおける児童の聴取内容とその聴き方を目的としている。平成22年度は,研究計画に基づき,第1に,聴くという行為の時間的変化を検討するために,2学級における5年時と6年時の国語科物語文単元における授業談話と直後再生課題の比較検討を行った。結果,両学年で両学級の児童はテキストを引用した発言を多く再生する一方,6年時にはテキストを引用していないが他児の発言に言及した発言を5年時よりも多く再生していた。また6年時には5年時よりも頻繁に発言者名に言及しながら他児の発言を自分の言葉で捉え直して再生していた。ここから,物語文読解授業における聴くという行為の時間的変化として,テキストを引用した発言に加え,他児の発言に言及した発言に対しても,発言の「著者性」を維持したまま自分の言葉で能動的に推論して聴くという行為が習得されることが示された。第2に,上記の知見と,採用第1年目の知見をあわせて,学位申請論文として『話し合いを中心とした授業における児童の聴くという行為-パフチンの対話論に基づく検討-』を執筆した。審査および最終試験の結果,合格し,平成23年3月24日に博士号(教育学)を授与された。第3に,採用第1年目の研究から派生した,教師の教材解釈と授業中の応答の関係を明らかにするという課題に向けて採取した,小学校5年生1学級における授業観察(計21回)および教師に対してインタビュー調査のデータを,教師の教材解釈や授業計画を考慮しながら,教師のリヴォイシングにおける即興的思考の特徴に焦点をあて,分析を行った。その結果,教師のリヴォイシングにおける即興的思考の特徴として、(1)対象とした教諭は児童についての知識に基づきながら,児童発話のうちに様々な児童の「声」を即興的に聴き取り,その「声」をリヴォイシングに反映させていたこと、(2)対象とした教諭は自身の教材解釈やそれに基づく授業計画に関連づけながら児童の発話を聴き,その児童発話に基づいて即興的に話し合いを展開させるようにリヴォイシングを行ってこと、(3)学習状況,とくに授業の時間帯の相違が,リヴォイシングを行う際の児童発話に対する教諭の認識や,それに基づくリヴォイシング方法に影響していることが明らかとなった。
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