2009 Fiscal Year Annual Research Report
有機分子内包ガラスを利用した持続的水質浄化プロセスの開発
Project/Area Number |
09J07752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上村 佳大 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ゾルーゲル法 / 非晶質材料 / 有機-無機ハイブリッドガラス / 廃水処理 / 単位操作 / 固液抽出 |
Research Abstract |
シリカガラスはケイ酸塩(SiO_2)を主体とする非晶質材料であり、高い透明性、化学耐久性及び熱耐久性を示す。ガラスの一般的な合成法は溶融法と呼ばれ、これはガラス原料のケイ砂を1600℃以上の高温環境下で溶融することで得られる。この時、ケイ砂と共に炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどを同時に溶融させて混合し、その後冷却を行うことで、ガラスを構成するSi原子骨格の中に様々な他原子を組み込み、ガラス自身の性質を変化させることができる。この応用として、より様々な機能を有する有機分子をガラス内に閉じ込めてガラスに機能性を付与する試みがなされてきたが、一般的なガラスは溶融法で合成されることから、有機分子の熱分解が容易に起こり、ガラス骨格中に有機分子を組み込むことが困難であった。本研究で用いた液状有機分子、リン酸トリブチル(tributyl phosphate,TBP)は主に工業廃水中に多量に含まれる有毒なフェノール分子の吸着・回収する機能を有する。これまでの利用方法として液状TBPを直接廃水に混合することでフェノール成分を選択的に吸着していたが、吸着後のフェノールをTBPから分離すことは困難であり、一般的には、TBP・フェノール共に焼成して分解させる手法をとっている。このため、TBPによるフェノール抽出は非常に高い環境負荷をもたらすことから、実用化及び、プロセスのスケールアップに至っていないのが現状である。近年ガラス合成の代替法として確立されたのが、ゾルーゲル法であり、これは液状のガラス原料を用いて加水分解反応及び重縮合反応を経てガラス骨格が形成されるため、溶融法のような高温を必要とせず、室温下でガラスを合成することができる画期的な手法である。本研究ではゾルーゲル法を用いて、室温下でガラス骨格を形成させ、そこに有機分子のTBPを固定化することを試みた。その結果、ガラスの原料に対して非常に多くのTBP分子がガラス骨格中に取り込まれていることが、熱分析(TG-DTA)、FT-IR、X線散乱、漏出試験(得られたTBPガラスを長時間水中に浸漬させて、TBPの漏出の有無を確認する実験)等の検証から明らかになった。しかし、ゾルーゲル法で得られたTBP内包ガラスは水耐久性が一般的な溶融ガラスに比べて低いことが漏出試験からわかった。そこで、ゾルーゲル法のみで可能となる、ガラスの一部を有機化し、有機-無機ハイブリッドガラスを作製することで、水に対する耐久性の向上に成功し、且つTBPの漏出を抑えることに成功した。また得られたTBP内包ハイブリッドガラスを実際にフェノール含有水溶液に浸漬させ、フェノール吸着試験を行った結果、TBP内包ハイブリッドガラスはフェノール分子を安定に吸着することがわかった。吸着メカニズム、脱着試験及び繰り返し利用等については今後検証する予定である。
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