2009 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀前半セビーリャにおけるイエズス会の思想と絵画に関する研究
Project/Area Number |
09J07778
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
諸星 妙 Waseda University, 文学学術院, 特別研究員(PD)
|
Keywords | イエズス会 / 修練院 / ロエーラス / フアン・デ・ラ・サル / イグナティウス・デ・ロヨラ / 霊操 |
Research Abstract |
本研究は、イエズス会を中心とする17世紀前半セビーリャの宗教的思想環境が、同時代セビーリャの絵画作品にいかなる影響を及ぼしていたかを明らかにすることを目的とするものであり、平成21年度は、17世紀初頭のセビーリャを代表する画家ベラスケスの初期作品とイエズス会の思想との関連について、中心的に検証を行った。 具体的には、ベラスケスの初期作品全体についての総合的な分析を行った上で、セビーリャのイエズス会付属サン・ルイス修練院のために描かれたと考えられているベラスケスの宗教画《東方三博士の礼拝》(1619年、プラド美術館)を取り上げ、イエズス会の付属施設という設置環境との関連から、その表現の特徴を詳しく検証した。 本作品についての従来の研究では、描かれた人物たちが画家の家族の肖像になっているというミゲル・セレーラの解釈以外に、目立ったものはなかった。このような現状を踏まえ、平成21年度の研究では、同時代のセビーリャのイエズス会誓願修道院での主祭壇装飾を巡る画家交代劇に注目し、3人の画家による同主祭壇のための作品を精査した。その結果、同祭壇画の出資者であるボナ司教フアン・デ・ラ・サルをはじめとするイエズス会士たちが当時、新しい自然主義的方向性をもった作品を評価しており、同司教の注文によって描かれたとされるベラスケスの《東方三博士の礼拝》は、そうしたイエズス会士たちの要請に応えるものであったことが明らかとなった。また、サン・ルイス修練院で霊的修練を行う修練士たちに利用されていたイグナティウス・デ・ロヨラの『霊操』についても詳細に研究し、五感を用いて、歴史的事象を現前に見ようとするイエズス会の瞑想方法が、ベラスケスの同作品におけるリアルな人物表現およびその特異な人物配置と結びつく可能性を明らかにした。 さらに、マドリード国立図書館では、イエズス会士たちと密接な関係を有していたベラスケスの師パチェーコの『絵画芸術』(1649年)、『著名貴伸肖像名鑑』(1599年)などの資料、およびパチェーコにも引用されているイエズス会士マルティン・デ・ロアの原典などを調査し、それを基に、17世紀前半のセビーリャ画家と結びつきのあったイエズス会士たちの活動についての基礎資料を作成した。このような基礎資料はこれまでにまだ纏められていないが、17世紀前半のセビーリャ絵画を理解する上で不可欠なものであり、平成22年度も引き続き、充実させていく計画である。
|