Research Abstract |
平成22年度は,抑うつ者にみられるネガティブな思考の抑制の失敗が,抑うつ者の焦点化方略の利用における自発性の低下と,焦点化方略の有効性の低下という2つの要因によって生じている可能性について検討するために,質問紙調査および実験を実施した。 まず,焦点化方略に関するメタ認知的信念と抑うつの関連について,質問紙調査を用いて検討を行った。その結果,焦点化方略に関するメタ認知的信念は,「問題解決の阻害」,「逆説的効果」,「冷静な判断」,「記憶抑制」という4つの因子で構成されていることが示され,特に,抑うつ者は,抑制対象となるネガティブな思考やネガティブな気分の制御が困難であるというメタ認知的信念を保持している可能性が示唆された。これは,抑うつ者が,焦点化方略の結果に対してネガティブなメタ認知的信念を保持しているために,焦点化方略を自発的に利用していないという可能性を示唆している。 次に,抑うつ者における焦点化方略の有効性の低下が,抑制意図の維持によって生じている可能性について,実験による検討を行った。その結果,非抑うつ群においては,焦点化方略を用いることで,抑制意図が緩和され,侵入頻度も低下するのに対し,抑うつ群では,抑制意図の緩和が生じず,侵入頻度も維持されることが明らかになった。この結果は,抑うつ者においては,抑制意図が維持され続けるために,焦点化方略の有効性が低下するという可能性を示唆している。この知見は,抑うつ者における,思考の制御に対する自己効力感の向上と,抑制意図の緩和を目的とした複合的な介入が,適切な思考抑制の実現において有効である可能性を示唆するものといえる。
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