Research Abstract |
平成23年度は,抑うつ者の経験する思考抑制の失敗が,メタ認知的信念と抑制意図と関連している可能性について検討するために,縦断調査と実験を実施した。 まず,焦点化方略に関するメタ認知的信念と抑うつの関連について検討を行うために,ネガティブなメタ認知的信念と抑うつの程度を測定するための尺度を,1か月の期間をおいて2度実施し,交差遅れ効果モデルを用いた共分散構造分析を行った。その結果,1時点目において,抑制の対象となる,ネガティブな思考や気分の制御が困難であるというメタ認知的信念の確信度が高いほど,2時点目の抑うつの重症度が高まることが明らかになり,ネガティブなメタ認知的信念が,抑うつの重篤化を導く原因となることが示された。次に,思考抑制中に形成される抑制意図と抑うつの関連について検討を行うために,参加者に対し,思考抑制中に語彙判断課題に取り組むよう求め,課題中に呈示される,思考抑制の対象と関連の深い単語への反応時間と,抑制意図と関連の深い単語に対する反応時間を測定した。その結果,抑うつの重症度が高いほど,抑制対象に関連の深い単語と,抑制意図と関連の深い単語に対する反応時間が短くなることが示され,思考抑制中には,抑うつ者が,抑制意図を強く形成しており,また,抑制対象へのアクセスが促進されていることが示された。さらに,抑制意図は,抑うつの重症度と抑制対象へのアクセスの促進の関係を媒介する変数であることが明らかになった。 これらの結果から,ネガティブなメタ認知的信念と思考抑制時の抑制意図が,抑うつ者の経験する思考抑制の失敗の原因となっている可能性が示された。これまで不明確であった,抑うつ者の侵入思考の背景プロセスを実証したことで,抑うつに対する新たな介入の方向性が示されたといえるだろう。
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