2009 Fiscal Year Annual Research Report
資産形成並びにリスク・マネジメントに関する総合的研究~理論・国際比較・制度設計~
Project/Area Number |
09J08276
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐井 りさ The University of Tokyo, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | Corporate Finance / Investment Frictions / Financing Frictions / Irreversibility / Costly Reversibility / Dividend Payout / New Share Issuance / Lumpy Investment |
Research Abstract |
本研究は資産運用を通じて家計の厚生を向上させることを目的としている。そこで今年度は、家計の所得の主な支払い手であり、同時に資産運用の対象でもある企業の行動についての研究を行った。 よく知られているように、現実の世界では「企業価値は企業の資金調達方法に依存しない」というモディリアーニ・ミラーの定理はほぼ成り立たない。その成立を妨害する一つの要因が資金調達コストである。我々は、投資と資金調達という企業行動の二側面を同時に含むモデルを構築し、新株発行にコストが伴うときに、企業の最適投資と最適な資金調達はどのようなメカニズムで決定されるのかを解明した。その結果、企業の行動を左右する変数はトービンの限界qであることが分かった。トービンの限界qは企業の投資行動を決める変数として古くから注目されてきた数である。 我々の研究結果によれば、この変数は企業の投資行動のみならず、企業の資金調達をも左右する変数であることが判明した。具体的には、新株発行にコストが伴うときには、企業の最適行動は2トリガー・ポリシーになることが分かった。企業はトービンの限界qが上限トリガーに接したときにのみ、新株発行によって資金を調達し、下限トリガーに接したときにのみ株主に配当を支払う。トービンの限界qが二つのトリガーの間にあるときには新株発行も配当の支払いもせずに、内部留保分を投資にまわすのが企業にとって最適な行動である。 企業行動に関する研究は従来、投資行動は主にマクロ経済学、資金調達は主に金融経済学というように、別々の分野で別々に研究されてきた。その不自然な分断を否定し、企業の投資と資金調達を同時に捉える研究はまだ始まったばかりである。我々のモデルは、そのまだ数少ない研究の一つである。この研究結果は、企業経営はもちろん、資産運用、行政あるいは法整備など様々な分野に応用することができるものである。
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Research Products
(2 results)