2010 Fiscal Year Annual Research Report
資産形成並びにリスク・マネジメントに関する総合的研究-理論・国際比較・制度設計-
Project/Area Number |
09J08276
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐井 りさ 東京大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 企業の資金調達 / 金融的摩擦 / Pecking-order理論 / 企業の設備投資 / 動的最適化 |
Research Abstract |
本研究は、動学的なモデルによって、企業の資金調達のタイミングと資金調達方法を同時に説明する。具体的には、自社株買い戻しや配当支払いにはコストがかからない(ないしはかかるコストが小さい)が、株式発行によって外部から資金を調達するときにはコストがかかる(ないしはかかるコストが大きい)という、非対称な金融的摩擦(financing friction)があるときに、企業はいつ、どのように資金調達をするべきかという問題を解いている。本研究で導かれた重要な結果は次の通りである。まず、企業の資金調達には(1)内部資金、(2)銀行借入、(3)株式発行という「Pekking-order理論」と同じ序列があることが示されている。情報の非対称性からこの現象を説明したMyers and Majluf (1984)と違って、この研究では、株主との資金のやり取りに非対称にかかる金融的摩擦が、企業に新株発行を敬遠させ、借入優位という資金調達方法の序列を生じさせる。借入の場合に借入額の増加・減少に対して支払金利の増減が対称であることが、「借入>株式発行」という序列を作り出すことが明らかにされる。また、この非対称な金融的摩擦により、企業の余剰資金に関しても(1)銀行預金、(2)株式買い戻し(または配当支払い)という序列があることも示されている。企業の余剰資金の配分方法にこのような優先順位があるということを理論的に導き出したのは、この研究が初めである。 本研究のように、企業の資金調達と設備投資を同時に含む動学的モデルを使った先行研究はいずれも企業の最適問題を数値計算によって解いているために、得られた結果に潜む「Pecking-order」のような性質やそれを生み出す経済学的なメカニズムを捉えることが出来ない。それに対し、企業の資金調達と設備投資の関係および金融的摩擦が両意思決定に及ぼす影響を、動的最適化問題を解析的に解くことで理論的に解明したことに、本研究の大きな学術的価値がある。
|
Research Products
(4 results)