2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J08504
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野本 瑠美 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 和歌文学 / 百首歌 / 定数歌 / 寿永百首 / 羇旅歌 |
Research Abstract |
本研究は、百首歌を総体的に捉え、その特質と影響を明らかにすることを目的とする。以下、研究計画で掲げた三つのテーマに即して報告したい。《1.百首歌の集成と分析》中古・中世に詠まれた百首歌を集成し、部立や歌題などの内容分析を行った。百首歌の集成を進める中で、中世から近世にかけて多数作成された菅原道真(天神)仮託家集・百首歌の伝本と奥書を調査し、f系統と呼ばれる百首歌が、別人の百首歌を道真作として利用していること、跋文に記された百首歌発見の状況が、貞治二年安楽寺神託詩歌事件を模して仮構された可能性が高いことを指摘した。本研究は、従来謎に包まれていた道真仮託百首の成立過程の一端を明らかにし得たと考えられ、天神信仰を研究する上でも重要な発見であったと考えられる。《2.崇徳院歌壇の活動実態》平安末期の羇旅歌隆盛の時代背景を探るため、崇徳院歌壇の重要メンバーであった藤原教長の詠作に着目し、羇旅歌の詠歌内容の変遷から、羇旅歌の量的変化と質的変化を明らかにした。さらに平安後期の歌合判詞を通観することによって、題詠の羇旅歌の発展に藤原俊成が大きな役割を果たしたことを指摘した。本研究は、羇旅歌隆盛の要因を明らかにし、羇旅歌・歌枕詠の研究においても意義のあるものであったと考える。《3.寿永百首の意義》平安末期の注目すべき作品、寿永百首の構成を他人詠の含有という問題から分類することにより、「奉納百首」としての新たな特徴を明らかにすることができた。具体的には『経盛集』の贈答歌や賀茂社奉納に関わる詠歌の分析を通して、『経盛集』が奉納百首としての性格を有していたことを証明した。これにより、従来私家集と同等に扱われてきた寿永百首研究に新展開をもたらすことができた。今回用いた研究手法は、先行研究では用いられていない斬新な発想に基づくものであり、今後の百首歌研究にも大きく寄与できたと考える。
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Research Products
(4 results)