2009 Fiscal Year Annual Research Report
現代民主主義における「闘技」理論の可能性-アーレントとムフを中心に
Project/Area Number |
09J08626
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 圭 Nagoya University, 国際言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 現代民主主義理論 / シャンタル・ムフ / 闘技民主主義 / ハンナ・アーレント / 敵対性 |
Research Abstract |
本年度は、シャンタル・ムフの民主主義理論に焦点を当て、彼女が提唱する「闘技民主主義agonistic democracy」を全般的に再検討することから出発した。そのさい特に、「熟議民主主義deliberative democracy」と今日呼ばれる現代民主主義理論と対照させながら、ムフの理論の独自性と重要性を提示することが主たる課題とされた。ここで明らかにしたことは、対等者のあいだでのコミュニケイション、ないしは対話のプロセスを通じたコンセンサスを重視する熟議民主主義に対し、ムフの闘技民主主義が前提とするのは、そのような満場一致のコンセンサスが原則的に不可能であるということ、いやそれどころかそのような合意への欲望は民主主義それ自体を危機に晒しうるものであるということであった。合意に代わってシャンタル・ムフは「敵対性antagonism」をその民主主義理論の中心に据えようとする。つまりムフは対立、不和、抗争、敵対性を合理的な対話を通じて漸減されうるものとしてではなく、むしろ民主主義のための積極的な条件として提示するのである。ムフの民主主義理論が構えるこの敵対性への視座は、ややもすれば熟議による合意から排除されてしまいがちな他者をも問題化する可能性を提供しており、その意味において闘技モデルは熟議モデルに包摂されえるものではないことを明らかにすることができた。今後はこの成果をもとに、アーレント政治思想との交差点を踏まえつつ、闘技理論が持ちうる可能性とその深化を阻む問題点を検討する。
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Research Products
(4 results)