Research Abstract |
実社会からの強い要望として,経済予測や環境問題などを始めとした様々な分野に対する高度なシミュレーションがあり,中でも特に重要な問題として,大規模連立一次方程式が挙げられます.大規模連立一次方程式は数学的には解決した問題ではありますが,実際にはスーパーコンピュータを用いたとしても古典的なアルゴリズムでは現実的な時間では解くことができないという問題点があります.このため,より効率よく方程式を解くアルゴリズムの開発が切望されています. 近年では,問題の大規模化に伴い,反復法であるクリロフ部分空間法が計算量・記憶容量の面から注目され,活発に研究されています.また実用上,クリロフ部分空間法は,その収束性能を向上させるため,問題をより解きやすい形に同値変形する,前処理とともに用いるのが一般的です.この前処理によって,クリロフ部分空間法の収束性能は大きく向上するため,「優れた解法」および「優れた前処理」の双方の研究が重要です. 該当年度私は,主に,「優れた解法」に対する研究として,現在実用上幅広い分野で用いられているGMRES(m)法の拡張に対する研究を行いました. GMRES(m)法は反復途中に"リスタート"と呼ばれる技法を用いますが,数あるGMRES(m)法の改良法においても,リスタートそのものに対しては"反復の繋ぎ目"としか認識されていないのが現状です.これに対し,私は,リスタートがある種の反復改良法と数学的に同値であることを示し,その観点から,GMRES(m)法のリスタートを拡張することに成功しました. 今後,拡張した枠組みの中から,GMRES(m)法に比べ優れた収束性を示す解法を具体的に提案することで,現在行われている数値シミュレーションをより大規模に行うことが可能となり,その結果,経済予測や環境問題を始めとした様々な分野で新しい概念や原理の発見,展開にも大きく貢献できることが期待されます.
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