2011 Fiscal Year Annual Research Report
仏教写本に基づく「タイ及びその周辺地域のパーリ語」研究
Project/Area Number |
09J08799
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 聡子 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 東南アジア仏教学 / パーリ語 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度実施したタイ国立図書館所蔵写本のローマ字転写から「タイ及びその周辺地域のパーリ語」を分析しながら校訂テキストを作成し和訳すること、物語の内容研究、さらに、それらを博士論文を完成させることを目指した。 「タイ及びその周辺地域のパーリ語」を保持する校訂テキストを作成するために、底本の選び方を決定し、それに従いすべての物語の底本を決定した。そして、それらの定本と異なる読みである場合、異読を脚注に記し、写本を校合し、校合したテキストをもとにして、和訳を進めながら既刊の辞書にはない綴りや主語と動詞が一致しない等の文法の崩れがある場合には、脚注において、校訂を加えた。また、校訂した語については、写本上の読みと校訂した読みとをパーリ正典のデータベースで検索するなどして、写本上の読みが一般的なものであるのか否かを分析し、統一した校訂方針のもとで校訂テキストを作成した。作成した校訂テキストは、『マーレッヤ長老物語註』、『コーサラ国仏像縁起譚』、『目連尊者の問い』、『目連尊者の物語』、『スピナクマーラ物語』の5話である。昨年度タイ国立図書館で転写した写本に『目連尊者の涅槃』もあるが、写本の転写が未完であったため、校訂テキストの作成に至ることはできなかった。『マーレッヤ長老物語註』は、タイ人研究者の修士論文としてタイ文字版のパーリテキストとタイ語訳が発表されているが、本研究では、異なる底本に基づきローマナイズテキストを作成し直し、和訳した。『マーレッヤ長老物語註』以外の4つの物語は、すべて初校訂テキスト・初訳である。 物語の内容研究として『コーサラ国仏像縁起譚』については、仏像起源伝説を説く他のパーリ語文献との関連を明らかにし、その研究成果を『東海仏教』第57号に発表した。『マーレッヤ長老物語註』については、註釈に引用される文献を研究した結果、パーリ三蔵ではなく、蔵外仏典から引用して註釈を加えており、その引用関係からこの注釈文献がどのような知識に基づいて著作されたのかが分かってきた。『スピナクマーラ物語』については、タイの古謡『サーマネーン・スピンの物語』のパーリ語版であり、出家の功徳を説く物語であることがわかった。 本年度のフィールド調査としては、『コーサラ国仏像縁起諌』などに説かれる仏像起源伝説をモチーフにして描いたとされる寺院壁画の調査をエクパノン寺(バッタンボン・カンボジア)やトーンノパクン寺(バンコク)などにおいて実施し、タイ国立図書館とチュラロンコン大学(バンコク)で『マーレッヤ長老物語註』などに引用される文献資料や先行研究の収集を行った。
|
Research Products
(2 results)