Research Abstract |
本研究は,公共プロジェクトとして導入されているわが国の遠隔医療について,その評価を学術的な観点から実施し,その評価手法を確立することを目的としている。具体的な研究内容として,公共事業や社会実験の評価において進んでいる米国や英国の手法を学びながら,実際に実施されている遠隔医療について評価を行い,わが国の実情に合わせた評価手法を確立することが目的である。 研究初年度の本年は,(1)米国における文献の収集・サーベイ,(2)社会調査の手法,分析の手法の検討,これらを実施した。調査手法のサーベイについては,遠隔医療の介入群,非介入群との効果の比較で重要となるサンプルセレクションの問題,あるいはTreatment effect modelといった先端的な理論の動向,および実証分析への応用について知見を得ることができた。 上記に加え,本年度は,遠隔医療の基盤となるブロードバンドの普及要因について,都道府県のパネルデータを用いた実証分析,また遠隔医療の評価事例として,医療費を指標とした在宅健康管理システムの効果を同じくパネルデータ等を用いて実証した。遠隔医療に直接関連する後者の研究については,国内での自治体が運営する在宅健康管理システムの成功例と言われる福島県西会津町の事例について,システムのユーザー,非ユーザーを抽出し,両者の医療費を分析した。結果,ユーザーの通院日数が有意に低下しており,更にそれがユーザーの医療費を削減していることを証明した。遠隔医療を推進していく上で厚生労働省等の関連省庁が必要としているのはエビデンスであり,この結果は遠隔医療加算の策定や,米国の保険制度に見られる,健康状態を維持した者に還付金を与えるような医療保険制度の改革への強力なインパクトとなり得る。 次年度では,国内の在宅健康管理システムの調査や分析に関して,これらTreatment effect modelを援用した研究を実施し,その結果を発表していく予定である。
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