2010 Fiscal Year Annual Research Report
抗争するチベット史:チベット社会論とその語りの歴史人類学的研究
Project/Area Number |
09J09023
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大川 謙作 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | チベット / 歴史人類学 / 歴史の語り / 社会論 / インド:中国:台湾 |
Research Abstract |
本年度の作業としては、(1)「抗争する歴史」という枠組みについての理論的研究、および(2)チベット旧社会の社会構成史的研究とりわけ旧チベットにおける荘園制度についての研究を行った。第一に、チベット問題をめぐる言説の基本構造を明らかにするという研究プログラムの一環として「排中律の語り」という概念を設定した。具体的にはチベットの経済問題(チベット問題における経済言説の再検討)、チベット現代文学(「欺瞞と外部性」)、現代中国仏教史(日本文化人類学会発表)をめぐる論争について考察し、そこにこの「排中律の語り」という「文法」が存在することを指摘し、またこうした「語り」の研究がチベット問題を支配する党派意識からの解放につながることを主張した。この作業のために9月には中国四川省カンゼ・チベット族自治州において農村経済とチベット史の記憶に関する調査を行った。第二の社会構成史的研究としては、前年度に引き続いて東京での文献調査、とりわけ『蔵族社会歴史調査』及びその成立過程についての研究の他、チベット亡命政府官僚たちのチベット語自伝など関連文献の分析も行った。また3月には台湾に赴いて中華民国期の国民政府の駐チベット事務所関連資料はじめ関連文献の収集を行った。結果、旧チベット荘園の理解に追って、これまで学界で主流だったチベットの身分制に着目した研究傾向(これをstatus centered perspectiveと名付けた)よりも、むしろ同一村落内部における多様性の存在に着目して、個々の耕地とそれが帯びる義務と権利を中心に分析する方が有効であるとの仮説(land centered perspectiveと命名)に至り、現在これを検討中である。その他、チベット研究と現地調査の関係を考察し(報告および論文「現代チベット研究と代替民族誌の問題」)、またアウトリーチ活動として、「ヒマラヤ・チベット言語文化研究会」(東京外国語大学)や「チベットの歴史と文化学習会」などの市民団体において講演を行い、また我が国で唯一のチベット語チベット現代文学の翻訳と公開作業なども行った。
|
Research Products
(7 results)