2011 Fiscal Year Annual Research Report
抗争するチベット史 : チベット社会論とその語りの歴史人類学的研究
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09J09023
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大川 謙作 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | チベット / 歴史人類学 / 中国民族史 / 歴史の語り / チベット問題 |
Research Abstract |
昨年度までの成果を引き継ぐ形で、文献研究および現地調査を推進した。 まず文献研究としては、18世紀から20世紀前半までのチベット語文献に見られる政治体制や社会制度にかんする語彙および事例を収集し、もって昨年度までの調査によって蓄積した20世紀前半のチベット旧社会の社会制度と比較する作業を行った。とりわけ『ドリン・パンディタ伝』に出現するチベットの土地制度に関する情報を体系的に収集して整理することができ、これは今後の研究にとって重要な基礎データとなるだろう。 また現地調査については夏季に中国四川省カンゼ・チベット族自治州および中国チベット自治区ラサにおいてフィールドワークを行った。中国からの投資がもたらした村落レベルにおける影響や、おラル・ヒストリーの採録をおこない、また現地研究者との研究交流を行った。さらに冬季には台湾に赴いて、民国期のチベット政策や漢人・チベット人関係についての文献収集を行うとともに、台湾漢人たちのチベット仏教信仰についての基礎データを収集した。こうした成果はこれまで対立と抗争という枠組みによって語られてきたチベット・中国関係における共生と交流の側面に光を与えるものであるといえる。 以上のような調査に加えて、編著の刊行、単行本論文集への寄稿、英文学術誌への書評寄稿、チベット語文学の邦訳、国際会議の査読、法務省からのヒアリングへの協力などを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
過去3年の研究、またその間に公刊したチベット問題の言説分析は、従来の我が国のチベット問題の理解を一歩推し進めるものであったといえ、またそのように評価されている。またアメリカで発表されたチベット社会論の分析については世界的にも高い評価を受けた。筆者はこの3年で現代チベット研究を刷新しえたと自負しており、当初の計画以上の成果があったとみなすべきだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題は、これまで20世紀前半に限定していたチベット社会論の分析を、18世紀および19世紀のチベット語文献に現れる社会制度に関する語彙や事例との比較にまで広げていくということである。チベット語歴史文献には社会制度に関する関心が薄いため、可能な限り多くの文献にあたってそこにまれに出現する社会制度論を丹念に拾い上げていくという作業が必要とされるだろう。
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Research Products
(2 results)