2010 Fiscal Year Annual Research Report
日本語の変遷過程における古文書の研究-語彙・文法・文体の成立と展開-
Project/Area Number |
09J09400
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永澤 済 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本語 / 言語 / 古文書 / 歴史 |
Research Abstract |
実用文書の中から、中世の裁判文書「裁許状」に焦点を定め、研究を行った。当時の裁許状は、多くが漢字のみで書かれ、表面的には漢文の体をなしている。しかし実際には日本語の影響を受け、正格の漢文とは全く異なる文体・語法・語彙により成り立っている。そうした「変体」漢文の研究は、あまり進んでいない。 日本史研究者の指導のもと、『鎌倉幕府裁許状集』に載せられた文書を、一通一通、丹念に読み進めた。その結果、各文書に述べられた詳細な意味(ときに、字面には表れない意味)を理解することができ、統語構造や語彙分析の基礎的作業が進んだ。それをもとに、現在、連体修飾構造、補助動詞等における日本語の影響や語彙などについて分析を進めた。 中世の裁許状は、近世以降の裁判資料とは異なる文体を示す。今後、異なる時代の裁判関係文書との比較を進めることで、日本における、漢文由来の公文書の文体の起源と変遷を明らかにできると考える。 今年度は、さらに、日本語史の解明に資する、次のような資料収集を行った。(1)言語学のみならず、歴史学や民俗学等の諸分野の研究においても、日本語にかかわる論考が多くある。そうした類の資料を収集した。(2)東京大学史料編纂所書庫、各地の博物館・郷土資料館等で、民俗語彙等の資料を収集した。(3)歴史学研究者による、米国、Yale大学における文書調査に同行し、種々の日本語資料を閲覧する機会を得た。その結果、たとえば『軍類故実集』や『松平崇宗啓運記』で、(現在の日本語共通語とは異なる)当時の発音を反映した可能性のある表記の存在がわかった。それら資料は、他にも語彙や文法面で口語的な性格を示しており、当時の口頭語(武士言葉)の資料として、研究の余地が多くあるという見通しをもった。
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Research Products
(3 results)