Research Abstract |
信号処理は,オンライン機械学習問題や適応フィルタリング問題など,幅広い分野に応用されており,誤差に頑健で低い計算量を有し,安定かつ高速な収束性能をもつアルゴリズムが望まれている.頑健性には「非可微分凸関数や指数型凸関数の値を十分小さくする点を見つける問題」に定式化が有効であり,低計算量で安定した収束の実現には「単調近似写像(解集合の点を不動点とし,それ以外の点は必ず解集合へ近づける写像)」の一つである劣勾配射影が有効である.しかし,劣勾配射影の収束は十分高速ではない.そこで,本研究は劣勾配射影と同程度の計算量で高速な収束を実現する単調近似写像を用いた高性能な信号処理アルゴリズムの構成を目的としている. 今年度は,昨年度提案したAdaptive Proximal Forward-Backward Splitting(APFBS,「可微分凸関数と非可微分凸関数の和の最小化問題」の解集合への単調近似写像である前方後方分離型近接点写像を用いた適応システム同定問題の解法の設計原理)の応用を行った.APFBSの枠組みにHuber functionを導入する事で,インパルス性雑音に対する頑健性を有した適応システム同定問題の解法を提案している.これは,Benestyらが提案しているRVSS-NLMSの拡張となっており,RVSS-NLMSに比べ高い推定精度を実現している. さらに,「非可微分凸関数の和の最小化問題」の解集合への単調近似写像であるDouglas-Rachford splitting写像を用いた適応システム同定問題の解法を提案した.この解法は,非可微分凸関数の和を目的関数として扱う事のできる初めての適応システム同定問題の解法である.特に,複数の制約集合の指示関数(制約集合上で0,それ以外で無限大の値をとる関数)の和を目的関数として用いる事で,制約に対する忠実性を厳密に実現できる.適切に目的関数を選ぶ事で,APFBSに匹敵する性能を実現できることを確認している. また,Alternating Direction Method of Multipliers(ADMM,「非可微分凸関数の和の最小化問題」の逐次最小化原理)の計算時間削減法の提案を行った.ADMMの更新は補助問題の解法により構成される.信号処理への応用では,この補助問題に非線形反復解法が必要となることが多く,1回の更新に多大な計算時間を要していた.そこで,ADMMに現れる補助問題を「閉じた解を持つ特別な補助問題」に置き換えても,ADMMと同等の収束性能が実現できることを明らかにしている.また,提案法が計算時間をADMMの21-77%程度に削減できることを数値的に確認している.
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