2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J09588
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
板東 洋介 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 国学 / 情念 / 本居宣長 / 和歌 / 物の哀れ / 松尾芭蕉 / 物語 / 造化 |
Research Abstract |
三年間の研究期間の初年度である本年度は、国学そのものの文献収集と精読とに努めながらも、同時に詩歌・物語等の伝統的な国文学における情念把握の精査をおになった。この研究の成果として、二本の論文を公刊することができた。一本目は論文「和歌・物語の倫理的意義について-本居宣長の「もののあはれ」論を手がかりに-」であり、題名が示す通り、伝統的国文学と近世国学との情念理解を俯瞰しつつ対照した、本年度の研究の中心となる成果である。ここで得られた国学情念論の基本的構造の理解により、次年度以降、儒教や仏教の情念理解との比較対照や、国学情念論の現代的問題への示唆等、より発展的な研究へとすすむための基盤が得られた。ここで分析された本居宣長の「もののあはれ」論の構造は先行研究においては明示されてはいないため、本論文は、国文学・美学・日本文化論など多くの学問領野で主題的に研究される重要きわまりない概念である「もののあはれ」について、新しい視角を切り開いたものとしての意義がある。また二本目の論文は、「芭蕉における造化」である。これは上記の、伝統的国文学における情念研究の成果であるが、近世的価値観の端的な表明といえる松尾芭蕉の俳諧および『奥の細道』のような著名な紀行文にみられる情念の表現と、またその情念と「造化」という超越との関係とを、定式化したものである。俳諧という国学と同時代の思想表現における情念理解を定式化することで、国学情念論の位相をより立体的把握する事ができた。しかも芭蕉における超越概念である「造化」は、儒教や老荘思想由来のものと考えられ、次年度以降、国学情念論と儒教の情念論とを比較対照してゆくための下地となるという効果も得られた。また、以上二点の公表された成果以外に、次年度以降の研究の基礎となる、仏教・儒教・西洋近代思想の文献精読も並行して進められた。
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Research Products
(3 results)