Research Abstract |
多発性骨髄腫治療薬として日本でも販売が開始されたサリドマイドは,現在でも催奇形性という問題を背負ったまま処方されているのが現状である。この問題を解決する為,不斉中心の水素原子をフッ素原子で置換した3'-フルオロサリドマイドの不斉合成を行った。Boc保護されたサリドマイド前駆体に対し,ヒドロキニンとNFSIによって容易に調製可能なキラルなフッ素化剤を用い,配位子としてTMEDAを加えることで収率88%,エナンチオ選択性78%eeでS体のフッ素化体を得ることに成功した。また,同一の不斉源を用いながら,ルイス酸としてアセチルアセトン銅,配位子として2,2'-ビピリジンを添加することで,R体のフッ素化体を収率81%,エナンチオ選択性78%eeで得ることに成功した。得られたフッ素化体を再結晶し99%eeとした後に,Boc基の脱保護,酸化ルテニウムによる6'位の酸化を行うことで,3'-フルオロサリドマイドの不斉合成に成功した。また,サリドマイドのラセミ体と光学活性体の溶解度の差に注目し,サリドマイドのラセミッククエンチング現象を見出した。すなわち,20%eeの(R)-サリドマイドをDMSOに溶解した後に水を加え,一時間攪拌した後,析出した結晶をろ過し,ろ液のエンチオ過剰率を測定したところ,83%eeと非常に高い値を示すことがわかった。また,溶媒としてpH7のリン酸緩衝液を用いた場合,サリドマイドは中性条件で約10時間で完全にラセミ化するという報告が数多くあるにもかかわらず,37□で1時間攪拌すると98%ee,24時間攪拌すると62%eeと非常に高いエナンチオ過剰率を与えた。このことから,生体内でラセミ化する際,このラセミッククエンチング現象が起こることで,エナンチオ過剰率が保持され,光学異性体間の薬理活性の違いが現れたものと思われる。
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