2011 Fiscal Year Annual Research Report
WTO紛争解決手続きにおける履行制度の法的諸問題―一般国際法の観点からの再考
Project/Area Number |
09J10026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 弥恵 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | WTO / 紛争解決手続 / 命令法規 / 裁量法規 / GATT |
Research Abstract |
命令法規と裁量法規の理論とは、GATT/WTOの紛争解決手続において、国内法それ自体のGATT/WTO法整合性が問題となった場合(as such事案)、その整合性の判断基準として認められている理論である。本年度は、WTO法における命令法規と裁量法規の理論について、GATT/WTOのパネル・上級委員会報告及び学説の分析を通して、次の点を検討し、明確にした。(1)当該理論のGATT時代の問題点、(2)WTOにおける当該理論の適用に関する改善点とその特徴および新たな問題点、(3)当該理論自体のWTO法における有効性。(1)そもそも命令法規と裁量法規の理論は、GATTのas such事案に関するパネル報告の中で認められ、発展していった。この理論を確立したことにより、as such事案を公正かつ予測可能的に解決することができるようになった点で、GATTのパネル報告に価値が認められるが、その適用方法はGATTの安定性と信頼性を満たすものとは言い難い。問題点は、国内法に何らかの裁量が認められる場合、その裁量の実質性を一切審理することなく、全ての裁量法規が無条件にGATT整合的となる点である。(2)WTO法においても、当該理論は、as such事案の判断基準として適用されている。ただし、その適用方法には、GATT時代のそれに比べて、一定の発展が認められる。まず、米国の301条事件のパネルは、当該理論を機械的に適用し、命令法規のみがそれ自体で違反、裁量法規それ自体が違反となることはないとするGATTのパネル報告に異論を捉えた。その上で、当該理論の適用は、WTO法上の各々の義務の性質に照らし、各々の国内法の特徴を考慮し、ケース・バイ・ケースに行うべきであり、裁量法規もそれ自体でWTO法違反となる可能性を認めた。従って、近年では、特に問題となる国内法の複合的性格に鑑み、法令のみではなく、他の国内法上の要素、及び国家実行を分析して、裁量法規の実質を明らかにし、as such事案を審理するという方法がとられている。(3)一方、命令法規と裁量法規の理論それ自体のWTO法における有効性については、WTOの国際機関としての本質、及び現行のWTOのパネル・上級委員会報告より、今のところ、有効と結論することができる。
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Research Products
(2 results)