2010 Fiscal Year Annual Research Report
WTO紛争解決手続きにおける履行制度の法的諸問題-一般国際法の観点からの再考-
Project/Area Number |
09J10026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 弥恵 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | WTO / 紛争解決 / 国際法 |
Research Abstract |
今年度は、WTO紛争処理手続きにおける法的諸問題の1つである、WTOパネル・上級委員会手続きにおける私人の法的地位について研究を行った。 WTOは政府間組織であるため、その紛争処理手続きにおいても、当事者は加盟国のみに限定されている。しかしながら、貿易とは本質的に私人間の取引行為であるため、WTOの多角的体制においても、私人の立場・利益を全く無視することは、WTOの現実にそぐわないというのが学界における一般的な見解である。実際のところ、WTO協定もその対象範囲の拡大に伴い、加盟国がWTO協定上負う義務の性質がGATT上の義務異なっていると認識されており、WTOの枠内においては私人も一定の権利・利益を有するとされる。そうであれば、私人も何らかの方法でパネル・上級委員会手続の審理に参加することを認めることが、WTOの本質にも適っていると考えられる。そこで、他の国際法上の制度を参照し、これまでのWTOの実行に鑑みた場合、私人のWTO紛争処理手続きへの参加を可能とする最も合理的な手段が、アミカス・キュリエの提出であると思われる。これは、パネル・上級委員会の審理手続のいずれかの段階で、私人が直接、自身の見解等を述べる手段であり、法廷の友とも言われる。紛争解決了解(DSU)上では、DSU13条、17条の解釈によって認められるとされているが、いくつかの問題も生じている。すなわち、このような手段をとれるのは、欧米のNGO等、資金的・技術的に恵まれた一部の団体のみであり、必然的にWTOが一部の利益団体の意向に左右されることになると指摘され、WTOの公平性を欠くと批判される。そこで、WTOの公平性及び公正を保つために、アミカス・キュリエの提出には、今後、詳細なルールを設けることが望ましいく、まずは、個々の紛争処理の中でアドホックなルールを設定し、将来的には、一般的なルール作成のための政府間交渉が望まれるところである。
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