Research Abstract |
本研究課題の目的は,睡眠段階遷移のダイナミクスとサイトカイン分泌の関係性を明らかにすること(研究1),また睡眠段階遷移ダイナミクスの数理モデルの構築を行い,それにより超日リズムを再現すること(研究2)である。研究1では,線維筋痛症(Fibromyalgia ; FM)患者の睡眠の問題はサイトカインの分泌異常が原因であると仮説を立て,健常人およびFM患者を対象とし,実験を行った。FMは慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome ; CFS)と非常に類似した疾病概念であるが,両者の違いも報告されている。 そこで,平成21年度は,FMを併発したCFS患者(CFS+FM)と,併発していないCFS患者(CFS alone)の睡眠の動的構造について検討を行った。その結果,CFS aloneでは,健常群と比較して,レム睡眠から覚醒への遷移確率が有意に高く,一方CFS+FMでは,健常群と比較して,覚醒,睡眠段階1,レム睡眠から睡眠段階2へ,睡眠段階2から徐波睡眠へ,徐波睡眠から覚醒,睡眠段階1への遷移確率が有意に高かった。これらのことから,CFSとFMは異なる睡眠制御の問題を有した異なる疾病概念である可能性が示唆された。この結果は,現在解析中である研究1を遂行して行く上で重要な基礎資料となる知見を含んでいる。 また,モノアミン神経系の拮抗薬の服薬により,各睡眠段階間の遷移確率がどのように変化するのかについても検討した。その結果,モノアミン神経系の拮抗薬の服薬夜は,睡眠段階2から徐波睡眠への遷移確率が有意に高くなることが明らかになった。このとき,睡眠中のレム睡眠の超日リズムも有意に延長しており,実際にレム睡眠の出現間隔が延長していたときは,その間の睡眠段階2から徐波睡眠への遷移確率も有意に高くなっていた。これらのことから,中枢のモノアミン神経系が睡眠の動的構造の構成に関与していることが明らかになり,また睡眠の超日リズムと睡眠の動的構造の間にも関連があることが明らかにされた。この知見は,研究2を遂行する際に重要となる知見であると考えられる。
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