2009 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄文学と原爆文学に見るアジア・太平洋戦争、体験者の戦後の生、米軍についての考察
Project/Area Number |
09J10319
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 陽子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 沖縄文学 / 原爆 |
Research Abstract |
『日本近代文学』第80号(2009年5月)に「循環する水-目取真俊「水滴」論-」を発表。沖縄戦の記憶が水を介して体験者の身体に回帰し、死者と生者の濃密な関係が描かれていることを指摘すると同時に、そのような水の循環に導かれる記憶の連鎖からこぼれ落ちていく存在としての女性の問題を浮上させることを試みた。 インターエイジア・カルチュラルタイフーン2009(東京外語大学、2009年7月)では「大城立裕「カクテル・パーティー」における裁判と被傷性」と題した口頭発表を行なった。占領下沖縄において、性被害にあった沖縄女性の言葉がないこのテクストの中で、裁判という法の言語と、法に訴えることで問題を明るみに出そうと奮闘する沖縄男性の行為が、性被害の当事者にとってセカンド・レイプ的な機能を果たしていることを指摘した。 「言葉を排除したあとに-リトル・ピープルの呼びかけが意味するもの」(小森陽一ほか『1Q84スタディーズBOOK2』、2010年1月)においては、村上春樹『1Q84』が、言葉によって他者と分かり合う可能性を排除することによって、直接的な暴力の発露を可能としていることを指摘し、批判的読解を試みた。 本年度は、これらの論考及び口頭発表を通して、テクストの表面からはこぼれ落ちていく「被害者」の声が、他者に領有されない形で聴き取られるためには、いかなる読みが求められているかという問題を追及した。アジア・太平洋戦争と「戦後」に生み出されてきた無数のサバルタン的存在を、沖縄・原爆を描いた文学の中に読みこむときに必要な視点に立った考察を行なった。
|
Research Products
(3 results)