2009 Fiscal Year Annual Research Report
ミシェル・レリスを中心とした、自伝を書くことの意義と諸問題
Project/Area Number |
09J10353
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大原 宣久 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ミシェル・レリス / フランス文学 / 自伝 / シュルレアリスム |
Research Abstract |
20世紀フランスの作家ミシェル・レリスが生涯にわたって特異な自伝的作品を書きつづけた意義、さらに、自伝という行為そのものの意義・特異性・問題点を問うことを研究課題として掲げてきたが、本年度はレリス研究に専念した。 当初の予定通り、レリスの長大な自伝的連作『ゲームの規則』全4巻のうち、とくに最終巻となる『フレール・ブリュイ』をおもに研究対象とした。注目したのは、それまでの3作品と違い、本作でレリスが自伝としては異色ともいえる断章形式を採用した点だ。 この問題を、自伝において作者が過去(幼少期)から語り始めた(第1巻『ビフュール』)としても、現在時に追いついてしまった(第3巻『フィブリユ』)あとに、それでもなお作者が語りつづけようとする場合に自伝文学が進みうる可能盤のひとつとしてとらえた。 断章形式には、時間性や因果性にとらわれずに自由な順番で、自由な長きで物事を語ることができるという点で、時間的拘束から逃れられるという利点がある。しかし、そのことは規則性や作品性の破壊とは必ずしも結びつかず、自伝的探求の末のたしかな「規則」の発見を求めてきたレリスのそれまでの歩みとは矛盾しないと結論した。文学の一様式としての断章形式を評価したドイツロマン派までさかのぼって考えても、断章とは断ち切られた形式でありながら、否定・反転されたかたちで、作品の全体性はたしかに想定されているのだ。 このような見地に立ったうえで、具体的に『フレール・ブリュイ』という作品を綿密に読解し、各断片が作品中にバラバラに置かれているように見えて、それらが読者の読解を誘い込むようなかたちで有機的に結びついているさまを指摘した。 以上の成果は、日本フランス語フランス文学会の全国大会にて研究発表された。また、こうした成果を含む博士論文が本年度、東京大学に提出されている。来年度以降、さらにここから多様なテーマに敷衍し、雑誌論文等のかたちで発表していく。
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Research Products
(1 results)