2010 Fiscal Year Annual Research Report
亡命ロシア文学における「ヴィジョンの複数性」と「疎外の意識」の研究
Project/Area Number |
09J10358
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 幸男 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 亡命 / シニャフスキー |
Research Abstract |
本研究は「亡命」における「ヴィジョンの複数性」と「疎外の意識」に焦点を当てながら、それらを統合的に研究することを目的としている。研究計画に従い、1年目前半期は主に日本国内での資料調査および研究を行い、1年目後半期から3年目に至るまでの1年半の期間は在外研究を行う。1年目前半期は所属先である東京大学の図書館を中心として国内で入手可能な資料収集を行い、1年目後半期からはスタンフォード大学スラヴ語・スラヴ文学研究室に研究環境を移し、同大学フーバー研究所アーカイヴズを利用しながら上記課題に基づいた研究を行う。1年目の研究課題は同研究所アーカイヴズ所蔵のアンドレイ・シニャフスキー・コレクションを利用しながら、亡命ロシア社会の知的空間の再構築を目指すものであり、これまでに書かれたロシア文学史でいまだ整理の行われていない文学現象としての「亡命」を整理し記述することである。多文化・多言語状況の顕在化した現在において「亡命」という過去に特殊化された状況を捉えなおす作業は、1991年ソ連崩壊後のロシアに留まらずダンテやウェルギリウスに連なるより大きな文学史を視野に入れた「読み」の更新であり、それは現代文化の理解に貢献すると考えられる。2年目の研究成果は2010年11月にロサンゼルスで行われたアメリカ・スラヴ東欧ユーラシア研究学会にて「シニャフスキーとブロツキー:亡命を超えて芸術について」の題名にて発表された。また北海道大学スラヴ研究センターより2010年に出版された『境界研究』第一号にて「亡命ロシア文学研究者グレープ・ストルーヴェ研究」が掲載された。また2011年3月22日にはモスクワ・ロシア海外文献図書館で開催された国際会議「時代のコンテクストにおけるアンドレイ・シニャフスキー」にて「シニャフスキーの速度:『思わぬ閃き』について」の題で発表を行った。以上の研究成果により、ゲニスとワイリの語るような「90年代」の雛型としての「60年代」を検証するに当たってブロツキーとシニャフスキーという全く異なるタイプの作家を視野に入れた結果、フルシチョフ末期を挟んで文学裁判により亡命を余儀なくされた二人の作家は多くの共通点を見出した。またシニャフスキーの出版者の一人でもあったストルーヴェのような亡命ロシア知識人社会の中心人物を視野に入れた結果、フランスにおけるシニャフスキーの孤立を亡命ロシア文学の伝統的使命感とその反発における文脈でとらえ直すことが可能となった。
|
Research Products
(3 results)