2009 Fiscal Year Annual Research Report
「不可能なもの」概念の考察を通じてJ.-P. サルトルの芸術思想を再提示すること
Project/Area Number |
09J10362
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根木 昭英 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | J.-P.サルトル / 20世紀フランス思想 / 「不可能なもの」 / 美学 / モラル・倫理 / 実存 |
Research Abstract |
本研究最大の目的は、「不可能なもの」をめぐるサルトルの思想を、従来の解釈には還元されない、一つの思想体系として統一的に取り出すことである。目的達成のための具体的作業として、本年度は、【1】芸術家の営為をめぐるサルトルの多様な記述から「不可能な投企」という共通の構造を取り出し、これを哲学的に理論付ける、【2】研究1で構造的に解明した美学思想がサルトル思想において持ちうる倫理的射程を明らかにする、という二つの作業に取り組んだ。 【1】サルトルにおいて芸術を主題とするテクストとしては、『想像的なもの』、および伝記的批評群(『聖ジュネ』、『マラルメ』など)があるが、これらの記述形式、執筆年代、主題は非常に多様であるため、その統一的解釈が提示されることはこれまでなかった。報告者はまず、「挫折」、「ペテン」といった語彙に着目すれば、伝記的批評群から、「不可能なもの」を追求する美的投企の共通構造が見出されることを示し、さらにこの構造が、『想像的なもの』における想像力理論により、想像的態度と現実的態度との弁証法的往還運動として、哲学的に説明しうることを明らかにした。それにより、美的投企をめぐるサルトルの思想を、体系的な仕方で取り出すことができた。 【2】報告者は、「不可能」、「挫折」といったモチーフから40年代の哲学著作(『存在と無』、『倫理学ノート』)を再整理する作業を通じ、この時期の存在論が、人間的実存をとりわけ「不可能性」として提示していることを示した。それにより、不可能の追求である美的投企が、哲学的著作で提示された実存の構造を「証言する」という倫理的射程を持つことが示された。さらに、伝記的批評群と上記哲学著作との対照作業により、以上に見た美学-倫理が40年代の「本来性モラル」の枠組みをほぼ全ての点において凌駕し、サルトル思想全体を再照射する視座を提供していることを明らかにした。
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Research Products
(2 results)