2009 Fiscal Year Annual Research Report
戦後のドイツ語圏文学における「語られる記憶」と女性のエクリチュールの批判的考察
Project/Area Number |
09J10408
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西尾 悠子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ウーヴェ・ヨーンゾン / 戦後のドイツ語圏文学 / 東ドイツ / 女性のエクリチュール / 男性作家の描く女性像 |
Research Abstract |
今年度は、研究テーマに関連する作品の熟読と資料の収集を重点的に行った。日本国内で入手できる文献は可能な限り入手し、入手が困難である文献も明らかになった。 当初、クリスタ・ヴォルフとインゲボルク・バッハマンの作品に重点をおいていたが、東ドイツ体制および女性のエクリチュールに対して客観的な立場をとれなくなる恐れがあったため、研究計画を変更し、西ドイツおよび西側諸国で執筆活動を行っていた東ドイツ出身の作家ウーヴェ・ヨーンゾンを中心に研究を進めた。戦後のドイツ語圏文学(とりわけ冷戦下の両ドイツ文学)をより広い視野からとらえるためである。 ヨーンゾンの作品では、自らの手で運命を切り開く女性が物語の根幹を成している。中でも、処女作『イングリット・バーベンダエールデ卒業試験1953年』と、集大成に当たる長編4部作『記念の日々』の主人公が女性であることは注目に値する。なぜ、男性であるヨーンゾンはあえて女性の主人公を起用したのか。今年度は、まずこの疑問から出発した。 ヨーンゾン作品の女性像に注目した研究は多くはなく、ここ十数年でようやくフェミニズムの視点からも論じられるようになった(A・クラウス1999、S・ゴーリッシュ1995)。先行研究では、ヨーンゾン作品に登場する男性陣が現状に甘んじているのに対して、女性陣が能動的であるという指摘がなされ、ヨーンゾンの描く女性像は「アウトサイダー的かっ男性の理想が投影されたユートピア的な存在」であるという結論に達している。これは的を射た指摘であるが、それでも登場人物の特徴が作者の性差や伝記と結びつけられている点においては、従来のフェミニズム研究の域を超えていない。本研究では、今後、ヨーンゾンの表現する女性像および女性のエクリチュールや、彼のエクリチュールに対する批判を踏まえた上で、ヨーンゾン作品を支えるコンセプトー「故郷」および「故郷の喪失」、そして「異他性Fremdheit」に着目する。
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Research Products
(1 results)