2010 Fiscal Year Annual Research Report
戦後のドイツ語圏文学における「語られる記憶」と女性のエクリチュールの批判的考察
Project/Area Number |
09J10408
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西尾 悠子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ウーヴェ・ヨーンゾン / Jahrestage / 記念の日々 / 故郷の喪失 / 異他性 / 故郷ではない場所 / 東ドイツ |
Research Abstract |
平成22年度は1年間ドイツに滞在し、夏学期はロストック大学、冬学期はベルリン・フンボルト大学に在籍しながら、昨年同様に東部ドイツ出身の作家ウーヴェ・ヨーンゾンを中心に研究を続行した。北ドイツの都市ロストックには、ウーヴェ・ヨーンゾン協会の本部がある。2月に協会が設立されたばかりということもあり、本年度はロストック大学でヨーンゾン関係のイベントが数多く開催された。ロストック滞在時の指導教員でヨーンゾン協会の会長でもあるホルガー・ヘルビヒ(Holger Helbig)教授の計らいで、協会主催の様々なイベントに積極的に参加させていただいた。ロストック大学で開講された4部作長編『記念の日々』Jahrestage講読のゼミナールでは自分自身の研究を発表する機会も得、参加者から多くの貴重なコメントが寄せられた。女性主人公のゲジーネと娘のマジー、およびゲジーネの恋人のD.E.が、それぞれの「過去」と「故郷」をどのように捉えているのかを分析する試みだったが、この過程でヨーンゾンの代表作ともいえる『記念の日々』において「故郷Heimat」という概念が重要な意味を持つことを再度確認した。「故郷の喪失Heimatlosigkeit」、「異他性Fremdheit」そして「故郷ではない場所Nicht-Heimat」-登場人物のたどってきた道や、彼らが現在置かれている状況によって、刻々と姿を変えていくのが『記念の日々』における「故郷Heimat」像である。以上の点を踏まえ、先に挙げた鍵概念がどのように表現され、どのように解釈し得るか、様々な角度から考察することが必要だと考える。ベルリンではベルリン・フンボルト大学のローラント・ベルビヒ(Roland Berbig)教授のもとで研究を進めた。ヨーンゾン関係の文献は日本では入手困難であることはすでにわかっていたため、ドイツ最大規模を誇るベルリン国立図書館やベルリン・フンボルト大学、ベルリン自由大学の図書館で資料収集を行った。 ドイツでの在外研究を経て、これまで取り組んできた研究課題をより広い視野から捉えなおす機会を得た。ヨーンゾン研究の最新の研究動向を知ることができたのも、大きな収穫であった。来年度は、今回の在外研究をより発展させることに努める。
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