2009 Fiscal Year Annual Research Report
紙上建築としてのソヴィエト建築史:イワン・レオニドフの建築プロジェクト研究
Project/Area Number |
09J10409
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
本田 晃子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ロシア / 全体主義文化 / 建築史 |
Research Abstract |
平成21年度は、主として博士論文の執筆と完成に焦点を絞った研究活動を行った。その際中心的課題となったのが、1930年代以降のソヴェエト・ロシア建築において、社会主義リアリズムと呼ばれる全体主義的文化システムがどのような経緯を経てヘゲモニーを確立することになったのかという問いである。この問いに答えるために、当時行われたいくつかの大規模建築プロジェクトを多角的に検討することを試みた。その中でも特筆すべき成果は、特に以下の点にあると考える。 1931~36年までの間に、モスクワの中心部ではソヴィエト・パレスを筆頭とする巨大建築物の設計競技が相次いで行われた。本研究は、レーニン主義の台頭とこれらの建築物に反映されたレーニン・イメージの変質に注目することによって、彼の後継者スターリンによる建築的モニュメントを介した権力表象とその正統化の戦略を、新しい角度から描き出した。 30年代後半に計画されたクリミア半島の開発に関する調査では、「古典」「ナロード(人民・民族)」「自然」といった社会主義リアリズムの重要な概念が、モスクワという中心に対するクリミア半島という周辺的トポスにおいて、どのようなかたちで解釈され、そこにどのような差異が生まれることになったのかを考察した。この時期の周辺地域の開発事業に関しては先行研究も少なく、社会主義リアリズムの建築実践における中央一周辺の偏差を調べるという点でも、目新しい試みであったと言えるであろう。 また、二次大戦前後にモスクワで開催された全連邦農業博覧会の分析では、革命後~戦後期にかけてのソ連邦の民族政策と、会場内に建設された各民族共和国のパヴィリオンのデザインの推移の相関を具体的に示し、それを通して「連邦博覧会」という形式がロシアを中心とする連邦統治システムのイメージ形成にどのように寄与したのかを提示することが出来たと考える。
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Research Products
(1 results)