Research Abstract |
平成21年度における具体的な研究目的は,「1.リスクコミュニケーション(以下,RC)の目標を,被害者と決定者との間の不合意を解消していくこととするべきなのか否かを明らかにする」,「2.ルーマンの『説得されずに進捗する意思疎通』というイメージに基づいたRC手法を新規に開発し,現実の場面に適用する.実践にあたってこの新規RC手法が目指すべき目標を明らかにする」の2点であった. 1.について,RCが合意を求めるものか否かだけでなく,RC促進の是非にまで遡って考察する必要性を認識し,熟議民主主義の観点からRC促進が正当化可能であるとの見識を得,ワークショップ発表を行った.合意の是非については,RCを個人の意見形成的・社会的問題解決的の2者に分け,前者は合意を求めず,後者は合意を求める必要があるとの見通しを得た.また,ガバナンス(すなわち,決定を単一の主体によって独占できない)という概念に記述的・規範的両面の性質があり,後者を過度に強調すると無反省的に流れに棹さすためだけの議論になる虞があるとの主旨で学会発表を行った.さらに,認知科学等で解明されてきたリスク認知バイアスとRCとの関係について,認知科学等の知見の応用により,従来は純粋に個人的選択の問題として扱われていたものが,社会的論争の問題群に変換されるという主旨で論文を執筆した. 2.について,ルーマンの社会システム論・信頼論・リスク論などに関する書籍を収集し,検討を加えた.もとよりルーマンの議論は難解であり,「説得されずに進捗する意思疎通」というイメージをRCにどのように具体的に導入するかについては未だ見通しを得ていないが,前述した個人の意見形成的RCとの接合の可能性はありそうである. 以上の成果はいずれも,RCがどのような目的で,どのような条件で求められるのかについて再考する材料となるものである.
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