2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J10918
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
沈 熙燦 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(CD1)
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Keywords | 朝鮮史編修会 / 中村栄孝 / 「金忠善=沙也可」 / 崔南善 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度の研究成果を踏まえて、さらに広い人物研究を行った。報告者の研究テーマである「朝鮮史編修会」には数十人の学者がいたため、その中で中核的な役割を果たしたと思われる何人かの人物を今年度の前期と後期にわたって検討した。 前期には、中村栄孝を取りあげ、広範にわたるかれの研究の中で、「金忠善/沙也可」に関する文章を考察の対象とした。「金忠善/沙也可」は文禄・慶長の役のさい、朝鮮に投降した人物であって、朝鮮が植民地化された初期にはもっぱら「売国奴」、「腰抜けの武士」、「作られた偽作」として非難されてきた。だが、1930年代における中村の実証的研究は、その歴史的な実在を明らかにし、なお、今日日韓融合の表象となっている「金忠善=沙也可」像が作られることに決定的な役割を果たした研究として称賛されている。しかし、報告者は「金忠善=沙也可」像の根底にある帝国主義、あるいは資本主義的な要素を問題としつつ、中村の研究に潜んでいる諸問題を「朝鮮史編修会」の歴史叙述の問題と結びつきながら論じた。 後期には、同じく「朝鮮史編修会」で重要な役割を果たした人物の中で朝鮮側の人を取りあげて研究を進めてきた。崔南善という入物がそれであるが、かれは「民族主義」の立場で日本の歴史学を批判したが、結局には転向した人物としてよく知られている。だが、報告者はかれの歴史論理に含まれている抵抗の姿勢を読み取り、植民地知識人としてかれが企てた戦略を浮き彫りにした。同様の文脈でかれの転向というのも、単なる裏切りではなく、植民地知識人としての挫折であったと捉え返し、その破綻された欲望を描こうとした。
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Research Products
(2 results)