Research Abstract |
現代青年においては社会的自立の遅れが問題となっているが,その心理的なメカニズムは解明されていない。そこで本研究では,学生467名と自立支援利用者27名を対象とした有能感に関する質問紙調査を行い,その結果に基づいて面接調査を実施し,有能感とアイデンティティとの関連について比較検討した。 1.有能感とアイデンティティ:自立支援利用者は学生と比較して,有意に有能感とアイデンティティの得点が低かった。有能感の偏差値40以下の有能感低群は,自立支援利用者において37.0%であるのに対して,学生では17:1%だった。しかし有能感低群の学生が,社会の中での自分を「学生」以外に「無意味」,「クズ」,「ニート」,「孤独」など否定的に定義づけており,「社会とうまくかかわれない」,「ニート」,「役に立たない」,「不明」,「友だちのいない人」といった自立支援利用者の自己定義と似ていることがわかった。 2.なぜ有能感が低いのか,否定的アイデンティティをもつようになったのかについて,面接調査によって検討したところ,「もっとできる人はたくさんいる」ことから自分には能力がないという感覚をもつケース,要領が悪く「歯車のひとつにすらなれていない」という感覚をもつケース,気分のコントロールができずに「自分を信用できない」ケース,複雑な養育環境のもと,望まれて生まれてきたわけではないという感覚から「存在価値がない」という基本的不信感を基盤としているケースが見出された。 3.自立支援利用者と学生との質的な違いは,友だちづきあいの有無だった。自立支援利用者は友だちづきあいがない,あるいは苦手という人が多かったのに対して,学生の場合は有能感低群でも友だちづきあいはあった。しかし有能感高群の学生のうち面接調査への協力を表明してくれたのが21.8%だったのに対し,低群は11.3%であり,学生の中にも人間関係についての深刻な悩みを抱えている場合もあると考えられる。
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