2010 Fiscal Year Annual Research Report
奈良朝文書の書体選択と中国受容―国家珍宝帳を中心として―
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09J40059
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川上 貴子 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 階別研究員(RPD)
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Keywords | 国家珍宝帳 / 奈良朝書 |
Research Abstract |
本研究は、8世紀の東アジア文化圏の書を広く対象として、奈良時代の日本が律令体制を整備する過程で、どのような書体が日本という国家を表象するにふさわしいのかという書体選択に関わる考察を研究観点に据え、奈良朝文書の書体を唐受容という観点から研究することを目的とする。 昨年度の研究において、国家的文書である国家珍宝帳の書体には、顔真卿の書体を含む玄宗期の新たな書体と、さらに奈良朝にすでに受け入れられていた「集字聖教序」を含めた王羲之の行書体・草書体が採用されていることを指摘し、先行研究における欧陽詢または智永、顔真卿という一元的な見方を批判した。 本年度はこれを受け、国家珍宝帳の一部にみられる玄宗期の書体が、国家珍宝帳を記す書体としてあえて採用された理由を、現存する奈良朝の公的文書との比較から検証することを目的とした。 まず盛唐期の書体については、昨年度、玄宗の趣向を反映しつつ、740年代に唐の宮廷周辺で成立していた可能性が高いことを指摘したが、同時期の張懐〓の書論により、玄宗期に新たな価値基準が模索されていたこと、またそれが顔真卿に見られるような書体であったことがあわせて確認できた。これにより、その書体が740年代に広く唐の宮廷周辺で成立した書体であった可能性をさらに高めることができた。 また現存する奈良朝の公的文書との比較に関しては、国家珍宝帳の7年前に制作された国宝「聖武天皇勅書」との書体の比較を試みた。平田寺勅書は聖武天皇発願であり、また寺への施入勅書であることからも、その機能を同じくする国家珍宝帳との比較は重要である。現段階では一部の比較に留まるが、この比較から、献納目録の国家珍宝帳だけではなく、政治文書である勅書においても、中国の書体を意識的に採用していた可能性を指摘することができた。 平田寺勅書の詳細な検証については次年度に行う。
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Research Products
(4 results)